28

「ああ、今日ホームルームで話しあっから帰んじゃねーぞ」

そう俺様せんせーは言い残して、傷つけた生徒(こーきくんねこーきくん)に見向きもせず教室を出て行った。

そのくせ島幸高に向けてウインクしていったうにゃい。

まあかわりに俺様せんせーも島幸高に見向きもされてないけどねえ!仲間仲間っ!…っは!いや俺様せんせーと仲間でも別に全然嬉しくにゃー!

「そろそろあれの時期かあ」

「お?」

ぽんって俺の頭を後ろから叩いたのは柚弦。

ではなく後ろの席の通称2分の1イケメン。俺命名、決していじめではないぬ。

「…けっ、触るでにゃー」

「ひでえ!!」

唾を吐く勢いで振り払ってやりました。俺は柚弦一筋だからねえ!まあ柚弦はのんびり教科書しまってたけどねえ!!

「で、あれって何ぞ」

「まるで何事もなかったかのように…傷ついた心をどうしろと…!」

大げさに悲しむ2分の1の扱いはもう慣れたもので、うへうへ弄ってたらそれに気付いたのか柚弦もやってきた。

「なあにしてんのー?」

今度こそ柚弦がぽむっと。

2分の1の肩を叩いた。

「…けっ」

2分の1を蹴ってやりました。思わず。
本来ならそれやってもらうの俺だったのに!柚弦にぽむってしてもらうの俺だったのに!

「こーきさん反抗期?」

どしたい、って首を傾げるゆづるんは脛を押さえて打ちひしがれている2分の1の肩揉んでる。

というかどうやらゆづるん「反抗期」ってフレーズが気に入った模様。俺が前に三鷹は反抗期だようて教えてからことあるごとに使うようになった。えへへ。こーきくんの影響です。柚弦の最近の口癖は俺が教えたやつですうへへ。

柚弦が俺との会話覚えてる。柚弦の中に俺がいる。うれしい。

「こーき?」

まあでも今のこーきくんは反抗期だからねえ!俺様せんせーにいじめられて拗ねてもいるしねえ!

いつものようにくっつきになんていってあげないんだからねえ!

というわけで。

ひょこっと頭を差し出してみた、ゆづるんの方に。

無言でひょこひょこと頭を揺らす。

「犬か」ってつぶやいた2分の1の脛をもっかい蹴る。

犬じゃないもの。ゆづるん大好きなこーきくんですけども何か?何かなにか?ライバルなんて知りませんけども何かなにか?

「どしたのー」

無言で頭差し出す俺にどしたどしたーて柚弦が何度も聞いてくる。反抗期だから俺は何も答えないけど、変わらず柚弦は頭を撫でてくれた。

わしわしぃって。

「うひょひょ!ゆづるんもっともっと!!」

「んー?」

「うっひょひょひょう!」

反抗期なんて速攻で終わりました。

ハイテンションで柚弦に絡みに行きました。


「あーっ!晃希何してんだよっ!!」


こんな大声はクラスに一人。

ライバルの島幸高。さすがライバル、タイミングいいところで邪魔してくる…!

だがしかしライバル観察も終えたこーきくんに怖いものはいっこもにゃー!!

「いちゃいちゃです」

宣戦布告でっすよ。

「はあ!?」

「いちゃいちゃですけど何か」

「う、嘘はいけないんだぞ!」

「嘘じゃないものー、ねえゆづるん?」

「ぅえっ、うん、えっ?」

あれ今このこ油断してた絶対油断してた。柚弦のことで喧嘩してるのに柚弦思いっきり油断してた。

けどびっくりした顔がかわいいので許します。

「ゆ、柚弦、俺とも、」

「ぽよぷぷぷーっ」

「俺とも仲良く、」

「ぷっぷぷきゅーん」

「ゆづ、」

「たたたたとーっ」

「あーーーーもう!!!」

ことごとく邪魔をすれば短気な島幸高が怒った。

机をばんって叩いて俺をびしっと指差してくる。あまりの馬鹿力で響いた机の音に、一瞬クラス中の視線が集まったけども、それが島幸高だと知ると速攻でそらしていった。気持ちすごいわかる。こーきくんもライバルじゃなかったらそらしちゃいたいぷーんて。

「なんだよ、俺が今柚弦と話してんだぞ!」

「話してにゃー、まだゆづるん答えてないもの」

「晃希が邪魔するからじゃんか!!」

「もういーだろ」

およ。

俺と島幸高の言い争いを止めたのは意外にも三鷹だった。

「こいつと喋っても話になんねー」

「ぬーん」

だって話する気がないもの!

ぷんって思いっきり顔を背ければ三鷹からも舌打ちが返ってくる。

俺相手じゃなにもならないと判断して、三鷹が柚弦に矛先を変えた。2分の1と話してた柚弦がそれに気付いて、三鷹と柚弦の視線がぱちっと合う。

「峯、てめえもいい加減にしろよ」

「…え、と…?」

ぎらっと睨みつけられて、困ったように柚弦が首を傾ける。

島幸高もそれを見て三鷹止めようとしてるみたいだけど、ぴりぴりしすぎてて島幸高でもきっと無理。
休み時間の教室にただならぬ緊張感が漂って、騒いでたクラスメイトが息を飲む音が聞こえた。
それにも三鷹は気付いたようだけど、ここまできたならと止める気はないようだった。

「ノンケだかなんだか知らねえけどよォ、へらへらしやがって、それは演技か?」

「…え、えん、?」

「本当に気付いてねぇのかって、」

「やめとけよ」

がちがちに固まってた空気を破ったのは高橋だった。

「三鷹も知ってんだろ、演技とかできる奴じゃないって」

そんなやつならよかったんだけど、って頭をかきながら三鷹を引っ張って下がらせる。

「気付いてないなら、その方が都合いいしね。だろ?」

「……っち、」

「なあ、何の話だよっ!!俺にもわかるように言えよな!!」

今回ばかりは島幸高の空気の読めなさに感謝だけども。

険悪な雰囲気をまとったまま三鷹が荒々しく教室を出ていく。入れ違いに顔を見せた次の授業のせんせーがものすごい勢いで青ざめていくよう……。

「気にすんなって、柚弦、あんなん八つ当たりみたいなもんだからよ」

「…あ、…え…、」

戸惑った柚弦の声に俺もハッと三鷹から意識を戻す。

同じように島幸高も柚弦に声をかけようとしたけど、すかさず高橋がずるずると連れてった。

「高南、悪いけどあと頼むわ」

「もがーっ!」

「お、おおう、おうおう…っ…!」

爽やかに手を振った高橋に俺も挙動不審のままぱらぱらと手を振る。

ち、ちくせう爽やかに去りおって、腹黒のくせに…!

けどそういえば、高橋は島幸高が来るまで、クラスの中心で。

そっか、カリスマ性だかなんだかは別になくなったわけじゃないの、かあ。

とりあえず元凶はいなくなって、クラスの雰囲気もちょっとはマシになる。

「ゆ、柚弦っ、ほら、三鷹反抗期さんだからっ、ねえ!」

わたわたと柚弦の横で手を振れば、茫然としてた柚弦も我に返った。

我に返って、すぐ、周りの状況に気が付いて。

にこ、と笑顔を作った。

「あ、反抗期さんね、びっくりした、あはは。だって顔がさあ、もうこーんなで、うわ、びっくり、びっくりしたー、超心臓ドキドキしてる、あは、」

「ゆづ、」

「あ、次の準備しないと、せんせーもう来てんじゃん、うわー気付かなかった、あはは。ほらこーきも寝るなよ?」

「う、うん、」

笑みを浮かべてぱたぱたと席に戻る柚弦。柚弦が動きだしたことに安心したのか、クラスもじわじわ緩んでいく。

けど。

「う、うええ2分の1−…」

「…わーってるよ」

下手へたっぴ。笑い上戸のくせに作り笑顔は下手だった。俺のだいすきなひとは、下手な笑顔浮かべて俺に背を向ける。

気付いてないのって、俺だって聞きたかったんだもの、俺以外が思ったって、しかたない。俺の気持ちなんてクラス中知ってるし、島幸高だってわかりやすい。


(でも柚弦は悪くにゃー)

ほんとに、気づいてないんだもの。

俺が、今まで共学にいたから、同性愛なんて普通になかったから、わかるのかなあ。

全然、思わないもの。クラスメイトの男子が自分を好きかもなんて。まず、考えないもの。

けどここではそれが普通だから。

あんなこっわい顔してるくせに、いっちょまえに恋してる三鷹が牙をむくんだ。

(おこちゃまめー)

それに比べたら高橋の方が落ち着いてる。腹黒だけど。腹黒だから?

ここが、一匹狼とクラスの中心の人間関係の違いだよねえ。
このクラスで島幸高がそこまで酷い目にあってないのは、柚弦がいるから。
柚弦がにこにこしてるからなのに。

その柚弦が笑わなくなっちゃったら、居づらくなるの、そっちのくせにおバカさん。

勝手に恋して勝手に怒って、勝手に一人になるんだ。

高橋がいなかったら、すすんで一人になってるんだろうけども。
島幸高はそんな一人が好きだから傍いてくれるだろうけどねえ。

でも俺は違うもの。

一人の中の一人じゃなくて。みんなの中で一人、選んでもらう。それが一番、幸せ。

(ガキはそっちじゃんかあ)

おバカさんおバカさんおバカさん。

なんて、ブラック晃希くんは柚弦いじめた三鷹にぷんすかしてみました。よくないよくない、可愛くないぞ〜。
はやくゆづるんに抱き着いて消化させないとねえ。


…というか、結局「あれ」って何なのか聞きそびれたぬ…。



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