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転校生はライバル。

一ヶ月俺の方が先だもの、経験値溜まってるもの!という強みはもろくも崩れ去った。

だからこーきくんもう負けにゃー!!
ぼわあっと自分で言ってやる気を出す。
まず敵を知るべき…!

そんなわけでこーきくんの転校生もとい島幸高観察日記。

一日目。

「おいてめえ何見てんだ」

もはや一匹でない狼三鷹に睨まれた。

見てたのはお前じゃにゃー!
勘違いも甚だしいですねえ!!

よしよしと背中を撫でてくれる流石の柚弦。
けどなぜか三鷹に向けて素敵にウインクした。
ちって舌打ちされて俺以上にへこんでるおおよしよし。

「どしたのゆづるん、テンション高いの?」

「いや…ちょっと調子のりました、うん、ごめん…」

色々失敗に終わる一日目。

二日目。

島幸高はクラスの中で比較的おとなしい地味な子に声をかけてる。

「なあ、なんでお前いっつも一人なんだ!?」
「あ、友達作るの苦手とかかっ?」
「心配すんなって、俺が今日から友達だ!なんでも言ってくれよな、力になるから!」

ちなみに会話してるようだけど、島幸高の声しか聞こえないよ!
つまりは声が大きすぎるよ!

ちなみに声かけてる子ちゃんと友達いるからねえ。
むしろある意味人気者の島幸高に声かけられてびくびくしておりまっすよ。
加えて顔はいい三鷹と、爽やかで(黒いくせに)クラスの中心の高橋に囲まれてびくびくしてまっすよ。

島幸高は思いこみが激しい。

ちなみに周囲のなんだこいつって目には気付いてない様子。


三日目。


魔の生徒会来訪再び。

「ううううううるせぇえええい!」

なんて叫びは野次馬の罵詈雑言歓声奇声雄たけびに掻き消される。

あ、会計こっちみたうわあ。

柚弦は双子とひらひら手を振ってさり気なく会話してる、なにそれずるい俺それしたことにゃー。

「何されたって俺はお前らの友達だからな!」
「親衛隊なんかに俺は屈しないから大丈夫だ!!」

とかなんとかとりあえず今日も喧嘩を売りつつ島幸高は学校生活をえんじょいしております。

島幸高は一人ぼっちとか、とりあえずリア充ぽくない人好き。


四日目。ちなみに土曜日。

本来観察する予定じゃなかったのだけれども。


「な、なんでここに島幸高がいるぬ!!」

ゆづるんの部屋でくつろぐ島幸高と取り巻き二人をびしいっと指差す。
いや正しくはくつろいでるのは島幸高だけであとはピリピリしております!
どうやら我儘を拒否できずに柚弦の部屋に連れて来ちゃったものと思われる、取り巻きつかえにゃー!!

「あ、晃希もきたのか!」

「俺がおまけ的な扱い!」

なにこのライバル油断できなさすぎるよう!

よよよ、と大げさにへこんだ俺に、柚弦がはい、と麦茶を出してくれた、うん、優しいですねえ…。

「さて、柚弦さん、この状況はなんでしょう」

「うん、それは俺も聞きたい」

困ったように柚弦が微笑む、後ろできょろきょろと部屋を見渡してる島幸高と、こっち睨んでる三鷹と呑気に茶飲んでる高橋。

え、なにこの図。

本当だったら俺が柚弦と(一方的に)いちゃいちゃするはずだったのに。

なにこの現実。

「なあ柚弦、あれって、柚弦が描いたやつ!?」

「んー?」

くいくいと柚弦の服を引っ張って上目で柚弦を見上げた島幸高が差した先には、壁に飾られた一枚の鳥の絵。

「うん、そう。…あは、かっけーっしょ、あの鳥?」

「う、うん!かっこいい!!」

にこにこと笑うゆづるんは休日に突撃されたにも関わらず優しい。
ゆづるんは誰にだって、優しい。罪な男でっすよ全く。

「なあ、柚弦っ、俺あの絵欲しい!!!」

島幸高の衝撃発言でぽーんと時が止まった。

「い、いやいやいやいや!言えば貰えるだなんて考え甘いでっすよねえ?!」

いち早く復活した俺がその考えを切り捨てれば、なぜか対抗してくる取り巻き二人。

「あ?幸高が欲しいっつってんだぞ?」

「絵一枚くらいいいっしょー?峯だって、喜んでくれる人に貰って欲しいだろ?」

「島幸高はだめーっ!!」

うおおお、って両手を中途半端に上げながら拒否る俺に島幸高が噛みついてくる。

「なんでだよ、いいじゃん!ってか俺は柚弦に聞いてるんだって!」

「ぬーっ!!」

「えーっと…」

渦中の柚弦が頬をかきながら声を上げた。
一斉に全員の視線をあびながら柚弦が、うん。と頷いた。

「そんなに欲しいならあげるけど」

「ほんとか!?やったー!!」

「っにゃー!!!!だめーっ!そんなのこーきくん許しません!!」

だってだって、柚弦が部屋に飾ってた絵でっすよ、大事な作品に違いにゃー!!
それを、こともあろうにライバルにとられるなんて!こーきくんだって、作品もらったことないのに!!

「柚弦が良いって言ったんだぞ!」

「ちっ、違うもの!こーきくん予約してたのー!!」

「嘘言っちゃいけないんだぞ!俺が貰ったの!」

「ぬにゃーっ!!」

じわーと涙目になる俺に取り巻き二人がドン引いた。

いいですいいです別に取り巻きにどう思われようが構わないもの!
柚弦の作品はライバルには渡さないもの!

「やだやだやだーっ!ゆづるんあげちゃだめえええ!!」

半泣きのままベタベタと柚弦にひっつく。

ぴーぴー騒いでいれば三鷹が切れた。

「うっせぇな!ガキかてめえは!!」

「うるせぇい不良め!」

柚弦にくっついたままべーっと舌を出す。

ついでに俺と柚弦を引き離そうとしてる島幸高にも出しておく。

「晃希はいつも柚弦と一緒にいんだからいいだろ!晃希ばっかずるい!!」

「じゃあ島幸高!金輪際柚弦に近づくでにゃー!!」

「な、なんでだよ!それとこれとは話が別じゃん!」

「じゃあダメですー!!」

俺と島幸高の喧嘩を止めたのは一つの溜息だった。


「ゆづるーんっ…」


うるうると涙ぐんだまま見上げれば、むにゅ、と頬を手で挟まれた。

「喧嘩するなら両方にあげない」

「にゅーっ!!」

「えええっ!!」

子猫の喧嘩だったと後に高橋が語った。


観察五日目。ちなみに日曜とんで月曜。

じいっと柚弦の背後から島幸高を観察中。
一方、土曜の喧嘩から俺を「敵」と判断した島幸高もこっちをじーっと見つめてる。

柚弦を挟んで睨みあってる状態でっす隊長!

「え、え、なにこれ、え?俺なにこれ」

柚弦がすごい勢いでキョドっておられる…。

「一言で言うなら男の戦いだよ!」

「? そう…」

島幸高がこっちに近づくたび柚弦を引っ張って距離をとる。

「晃希ばっか柚弦にくっついてずるい!」

「俺は柚弦と一心同体だからいいんですー!」

ぬるーんと腕を回す。

「グリーン晃希くん降臨!」

そして背後から柚弦にしがみついて島幸高に勝ち誇った笑みを向けてやる。

ぐぐぐ、と口を噛んでる島幸高は取り巻きに妨害されているようでそれ以上こっちに近付けない様子。

取り巻きナイス!!

「そ、そんなにくっついたら柚弦に迷惑だろ!!」

「グリーン晃希くんは許されます」

「緑…て、あ、めがね?」

ぴよぴよーとか言いながら(何故ぴよぴよ…)柚弦が耳の後ろに手をまわして眼鏡を動かした。

「そうでっすよ!この眼鏡のようにこーきくんは柚弦といつも一緒なのである…!」

そしてあわよくば眼鏡のように、いつもそこにあって当然という存在になるのでっすよ、えへへ。
ぶれなく対抗心をむき出しにしてくる島幸高が勢いよく手を上げた。

「そんなのおかしい!じゃあ俺、茶色になる!!」

「なにその色可愛くにゃー」

「な、なに言ってんだよっ、柚弦の髪の色じゃん!」

うっへえ。

「なにその微妙な顔!?」

「抜け落ちるが良いよ」

うん、あやまる、あやまるからゆづるん、そんな悲壮感に満ち溢れた顔で振り返らないであげて。


島幸高は峯柚弦が好き。


「じゃあ俺肌色!」

「うっへえ」


島幸高は高南晃希のライバル。

ちなみに見向きもされない取り巻き二人に同情の目が向けられているのには気付いてない様子。


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