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いつもの笑顔を消して真面目な顔で俺を見つめる柚弦に、なおさら眉が下がる。

それでも柚弦の真面目な顔は崩れなくて、しょうがなくよいしょーって思いっきり息を吸う。

「なんでそんなこときくにゅ」

あれ噛んだ。

予想だにしないところで噛んだ。

「なんでって、…俺に、言わすの?」

「ぽぇ」

噛んだの柚弦突っ込んでくれなかった。
笑ってもくれなかった。

もしかしたらちょっとはいつもみたいに笑ってくれるんじゃないかあって、そう思ってた俺の希望がさっくり打ち砕かれる。

そのせいで人生初とも言える謎の擬音が口から飛び出したけども、柚弦の真面目な、ちょっと悲しげな表情は変わらない。
いつもにこにこしてる柚弦がこうやってその笑顔を消しちゃうのは、ほとんどなかったのに。

落ち込んでても、しょげてても、それでも柚弦の傍はあったかくて、近くにいたくて、だから。

今みたいにこうやって、柚弦が何思ってるのか、そんな顔で今何を言いたいのか、わかんなくってもやもやしたのは初めてだった。

「柚弦、なんでーって聞いてるの俺だよ、ねえ」

どう思ってるの、って。
俺に言わすの、って。

もしかして、会計との話聞かれてたのかな。
もう俺の気持ちわかったってこと、なのかなーって。

思っちゃうよ、そんでそんな顔されたら、ああだめなんだなーって、おバカさんなこーきくんだってそれくらいわかっちゃうよ。

ゆるゆるな俺の涙腺を、くわっと目を見開いておさえる。

というかなんだろこれ、ほんの前まで柚弦とにへにへしてたのに、ノートに落書きしてにへにへしてたのに、意地悪な会計相手にもにへにへしてたのに。


いやもう急展開みたいな。

みたいなっていうか急展開、がっつり。

途中見てなかったドラマの最終回見ちゃったみたいな。
うっかり読んだあとがきでネタばれしちゃったみたいな。

このちょっとの時間でまさか俺の一ヶ月の恋に終止符が打たれるなんて、流石に会計も予想できないだろう、笑ってもいいよ。

俺が噛んだのはスルーだったのに、俺の目が潤んだのは気付いたらしい優しい柚弦が、ちょっと申し訳なさげに目を逸らして、「ああああ…」とか言いながら髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。

それにちょっとだけいつもの柔らかい雰囲気が戻って少しほっとして。

ついでに、前髪かきあげるとかうっひょイッケメーン、なんてこの雰囲気でも脳内に花咲かせちゃったせいで涙が止まる。

「ごめん、今の俺ちょっとかっこわる…、うーん、ごめん…ええと、ごめん」

え、なんで今猛烈な勢いで謝られてるの?

はっ、もしかして返事!返事なのか!!
お前の想いはわかったけどやっぱり俺は男は無理だぜごめん、みたいな。

つか晃希タイプじゃないわごめんみたいな!
うわあ自分で言っておきながら物凄く傷ついた…!!!!

一人猛烈なショックを受けてる俺と、まだ頭抱えてる柚弦。

あれなにこれなにこれ。

ていうか柚弦が普段の感じに戻ったってだけで俺までちょっと復活する不思議。

柚弦パワー効力半端なさすぎますねえ…。

けど柚弦の鉄壁の防御もこれで崩れたということに、
………うん?

いやいやいや待て待て待て。
ちょっと落ちつきませうヒッヒッフー。


柚弦さんですよ。
あの柚弦さんですよ。

この一カ月、にへにへしようがくっつこうが横で好き好きオーラ振りまこうが気付かない、あの鉄壁の防御の柚弦さんですよ?

その柚弦さんがでっすよ、この数十分で、俺の気持ち知って、その上で即俺とお話しちゃう、とか?

そんなあっさり納得してもらえるんなら、ノンケとか気にしつつ地味ーに地味ーに頑張った俺の一ヶ月は何だーてことになりまっすよ、ねえ?

あれちょっと落ちつきを取り戻したらもやもやが大量生産されはじめてきた。

ていうかあれだよねえ、よくよく考えたら柚弦が悲しげな顔するのも、今いつもと同じ雰囲気で頭抱えるのも変っていうか。
吃驚でもなく嫌悪でもなく戸惑いでもなく、ちょっと悲しげって。

なぜになぜに。

あれ、俺の気持ちバレた、とかってもしかして俺の気のせい?

…ななな何それ恥ずかしすぎる!!!

いやでもそしたら柚弦の質問の意味さっぱりでっすよ。

「ごめん、晃希、やっぱ今の質問なしで、」

「逃がすか待てーい」

一通り髪を混ぜ終わって、今さら爽やかに立ち去ろうとする柚弦の腕をがしいっと掴む。

いやここまでかき乱しといて柚弦さん、自己完結して帰られても!

おかげでこっちはもっやもやのなぞなぞでっすよ!



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