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親衛隊とか、当たり前のように受け入れてきたけど、思い返せばほんの1、2ヶ月前まではそんなの知りもしなかった。というか、まあそもそも男同士の恋愛に自分が関わるとも思ってなかったわけですけども。
けどこのほんのちょっとの時間では変わった環境に揉まれて、無理だよって、叶わないよって言われる恋をしたら、なんだか親衛隊の気持ちもわかる。
「タラシ最低ですねえ」
撫でられた頭をごしごしとこすれば会計が頬を膨らませた。
「それ幸にも言われたってえ。だからほら、知ってる?最近俺親衛隊の子とヤってないんだよー?寂しいなら俺が構ってやるから、だって、幸は優しいねえ」
「それで、転校生好きになったの」
そんなこと、今まで誰も言わなかったのにねえ、と続けた会計の言葉に被せるように聞いた。
「そ、なんかおかしい?もっとちゃんとした理由がなきゃダメなの〜?」
言葉は堂々としてるくせに、不安気に聞いてくるのがなんか変なのって思った。
けど。
「さあー。俺は転校生モテモテの謎を知りたいだけだぬ」
もう一個欲を言えば、みんなはどうして恋に落ちたのかなあって、ちょっと不思議に思っただけだ。
「そんなの峯くんがいる君にはわかんないよ」
「うひょ」
ちょっと冷たい会計の声に驚いて見上げれば、すぐに笑顔が作られた。
「ま、ともかく、褒めてほしいよねえ、ちゃんとお遊び切ったんだし」
お遊び。
「親衛隊のこと?」
「うん、そうそ、っおっと」
軽く頷いた会計を衝動にまかせて蹴った。微妙に避けられたの腹立つ。
「チャラ男素直に蹴られるべきでは?!」
だって、親衛隊は、みんなみんな会計が好きで。
俺が柚弦を追いかけるように、必死で会計を追いかけて。
なのになのに、簡単に関わっては簡単に切り捨てる会計。
「…君さあ、なんか勘違いしてる?親衛隊つったって、金目当てもいりゃ身体目当てもいんのよ?親衛隊のせいで俺らがどんだけ迷惑受けたか君知らないでしょ?」
ああ、たしか前転校生もそんなこと言ってた気がする。
お前ら親衛隊がいるからこいつらは友達ができないんだぞ!って。
制裁とか、あり得ないって、お前らは最低だって。
「というか会計が中途半端に手出すからいけないんですよねえ!!」
「だって、向こうから抱いてくれってきたんだよー?お望み通り抱いてあげて、相手も喜んでハッピーじゃん」
「そんなの、本当に嬉しいはず、」
「大体そんなこと君言える立場?」
「ぬ、」
言葉に詰まれば、会計が笑った。
いじめるのが楽しいっていう、そんな感じの。
「親衛隊の子が言うならまだわかるよ〜?君のはただの憶測。それにさあ、君だって同じじゃない。峯くんにさあ、触られたら嬉しいんでしょ?」
「う、」
「恋愛感情とかないって、わかってても、頭撫でられたら嬉しいでしょ、抱きしめられたら嬉しいんでしょ?それと同じだよねえ。君峯くんのこと責めたことあるの〜?そんなの最低だってさ」
図星だった。
嬉しかった。近くにいきたかった。近くにきてほしかった。
友達としか思われてない、けど、それでも少しでも触ってもらえたらこのほっぺたは簡単に溶けた。
「それとも君は真っ向から峯君に拒絶された方がよかった?一切相手にされず、拒絶されても君満足?そっか、仕方ないって納得すんの?」
君が言ってることってそういうことだよって、指をさして会計が言う。
「う、ぬ、」
違う、会計が言ってるのなんて極端な話。
人の感情、受け入れる切り捨てるの二つだけじゃなにゃー。もっとちゃんと大切にするべきなのだ。
「会計はサボったんだぬ、ちゃんと向き合って、その上で断ればよかったのに、傷つけない方法なんていくらでもあったのに、」
「あーあー、そういうのうざいんだよねえ」
冷たく言い放った会計にもう一回べーっと舌を出した。
「柚弦と会計は違うもの、会計は、なんの感情もなく触れるだけだけど、柚弦はちゃんと、俺を見て、何かしら思って近くにいてくれて、それを俺が勝手に置き換えてるだけで、心の伴ってない会計と柚弦は違うもの!」
そう叫んだ、瞬間。
ガンっと会計が机を蹴り飛ばした。
教室に響く大きな音に身体がびくうっと跳ねる。
「は、なーに、それ。俺がいつちゃんと向き合ってないって?俺の何を知ってそんなこと言えるわけ?結局君は自分が傷つきたくないだけじゃない、俺だって、俺なりにやってるよ?」
会計の足がまた机を蹴り飛ばす。
「ほんっと、君みたいに、清く正しく恋してます!みたいな子イッライラするよ。まったく、やんなっちゃうよねえ…。大体さあ、君峯くんの何知ってんの?」
「ぬ、」
「ちょっと一緒にいるからって、峯くんのこと全部わかったつもり?峯くんだって、俺と同じだよ、拒絶して、どこか別のところで笑うんだよ」
何も言えない俺の代わりにぺらぺらと会計が話す。
「親衛隊はまるで君だねえ、転校生のどこがいいのだなんて聞くのも、転校生から好きな人遠ざけようとするのもさあ。言ったよねえ、いつか泣くよって。俺見てわかったでしょ、君がいくら頑張っても頑張っても、恋される側はこんなもんだったりするわけ。勉強になった、新入生くん?」
そこまで言い終えて会計がよーいしょ、と蹴り飛ばした机を元の位置に戻す。
さっきまでの怒気も威圧感もさっぱり消してにこやかに笑う会計が、手をぱんぱんと叩いて腰を伸ばした。
「じゃあね、ネコちゃん。大変だねえ、辛いねえ、可哀想に。だからその分さあ、そんなのやめちゃえる自由が君たちにはあるんだよ?泣きたくなったらいつでもさ」
『泣きたくなったら俺の胸においでよ』、なんてよくある慰めの言葉だけど、会計はそんな優しい言葉は言わなかった。
『泣きたくなったらいつでもさ』
いつでも勝手に、諦めちゃえ。
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