20
折角いいところだったのにとんだ邪魔が入ったものである…俺様せんせー邪魔しかしてないよ!
俺様せんせーに何かした覚えは…うんいっぱいあるんだけども……………。
あーあーと身体を机に乗せて足をぱたぱたしてみる。
「おひま…」
ぐるーと教室見回してもだっれもいない。
日の当たった柚弦の席が見えて、にやあと笑みが浮かんだ。
「ゆーづるーんのせーきっ!」
きょろきょろっともう一回教室を見まわしたあとサっと柚弦の席に座った。
柚弦の席。柚弦がいっつも座ってるとこ。
柚弦は毎日こんな景色を見てるのかあ…。
なんとなく落ち着かないままそわそわと椅子に何度も座りなおしてみる。
ぺたぺたと机を触ってみる。
「お、柚弦置き勉だー、見ちゃえ見ちゃえ」
恥ずかしさを隠すように一人喋りながらノートを発掘。
ぺらぺらとめくる。
「あー漢字間違えてるー」
にへ。
「あっ、この時柚弦寝てる!絶対寝てる!」
にへにへ。
「落書きはっけーん」
うさぎだ。なんでうさぎ?
あ、ねこもいる。
動物ブームだったのかねえ。
「なんかかいちゃえ」
よいしょーって柚弦の机から筆箱を取り出してシャーペンを拝借。
ていうか柚弦筆箱も置いてくのか!!
がっつり置き勉だよ!柚弦悪い子だー!
けどノートにちゃんと名前書いてる、やっぱ良い子だー!
うーん、なにかこっかな。
うううううむ…。
言葉は浮かばないし、仕方ないから柚弦の落書き猫の横にもう一匹猫をかいた。
「柚弦気付いてくれるかなー、ねー、ねこさーん」
柚弦がかいた可愛い猫の隣、線の濃さが違う不格好な猫。
気付け柚弦!ていうか気付いてくれるまで落書き増やしてやるんだからねえ!!
「こーんにーちはー、ねえここA組だよね〜?島くんどこか知らなーい?島幸高ー」
「うっひょひょひょう!!!!」
しゅばっと俺にしては稀に見る素早さでノートと筆箱を机にしまった。
みみみみみ見られた!!見られたあああああ!!!
「ししし心臓が吐き出されたらどうする!」
突然教室に入り込んできた金髪チャラ男―会計だうにゃい−をびしいっと指さして牙をむけば、首を傾げたあと会計が猫のように目を細めた。
「あー、君アレだ、その口調、覆面の子でしょー?」
「ばばばばばばばれた!!!」
「君って馬鹿だよねぇ」
ていうか会計とは覆面被る前に会っちゃってるからバレるも何もなかった。
ノリで反応しちゃったぬ。
会計ががたがたと適当に机に腰掛ける。
「俺いま幸探してるんだけどぉー、どこいったかなんか知らない?君仲いいんでしょ?」
「別に良くはにゃー。転校生は高橋と三鷹とどっかいったぬ」
だからさっさとお帰りくださいませーと手を振ったのに会計は何を思ったか椅子に座りなおした。
…こ、こいつ居座る気だ…!!
「あの子たちに取られちゃったかあー。あーあー、会長がご機嫌ナナメだと人使い荒くなるんだよねー、ホームルームなんて出させなきゃよかった〜」
そういえば、転校生も取り巻きもいつの間にかクラスに帰ってきてた。
寝てたから全然気にしてなかった。
なぜか毎回ホームルームには転校生帰ってくるんだよねえ!
そのせいで俺様せんせーにっやにやなんだよねえ、あいつは結局俺様のとこに帰ってくるんだぜにやにや、みたいな。
生徒相手に嫉妬しまくりだよ大人の余裕皆無だよ!!(まあ多分転校生は連絡ないか確認してるだけだと思うけどねえ!!)
けどけど、誰かを追いかける人の姿を見るのは、すき。
なんかあれだよね、持久走一緒に走ってる気分だよね!
「好きなら追いかければいいぬ」
特に残念がってもいない会計の椅子をげしげし蹴って急かすけど、へらへらするばっかで動こうとしなかったちくせう。
走るがいいよちくせう。
「幸いるとみんな仕事やる気出るしさあ、来て欲しかったのになあ〜。つーか連れてかないと俺が会長に八つ当たり受けるんだけどー。…まあ先越されちゃったんなら仕方ないかあ」
こいつ人の話聞いてにゃー…!!
「来て欲しけりゃ奪ってでも連れていけばよいではないか、よいではなーいかー」
あれなんでだか途中から変なテンション。
ともかく、まってりゃ来てくれるだなんてそんな考えモテ男にしか許されな、あああこいつモテ男か!!モテ男だ!
「なにそれ、君意外と熱血なの〜?」
「熱血違う」
少し馬鹿にしたように笑う会計にべーっと舌を出す。
会計とは会ったばかりだけど、多分性格合わないってわかる。
モテ男だからかねえ…。う、羨ましくなんてないんだからねえ!別にモテなくていいんだもん、柚弦さえ見てくれればいいんだもん!
「追いかけなきゃ死んでしまうのでっすよ」
「なーにそれ」
「心がないと生きてけにゃー」
突然何の話ー?って会計が首を傾げる。
「でもその心を俺は柚弦に奪われちゃったのでっすよ」
「はいはい、片想いでしょー?」
「だから早く返して貰わなきゃいけにゃー。奪われた心を返してもらうために、俺は柚弦を一生懸命追いかけるのでっすよ」
だから会計も頑張るべき!ってちょっとかっこよく言ってみたのに「君って馬鹿?」って会計がもう一回言った。
「なにそれ、突然何かと思えばさあ。奪われたから返してもらうだなんて、ただの自己満じゃん。そもそも峯くんてノンケなんでしょ?奪ったとも思わなきゃ返しようもないよね、」
会計の目も口もにい、と半円を描いた。
「死ぬんだよ、君」
「会計うにゃい」
「だってそうでしょ、『峯くん大好きな君』は死ぬしかないじゃない。そんな恋、何が楽しいわけ?そんな一方通行の恋の何が楽しいの、君は」
「恋なんていつも一方的だよ」
そう言う会計だって、転校生に構ってもらえてないくせに。
ていうか転校生は一人しかいないんだからイケメンのみなさまだってほっとんど一方通行決定だ。
それともだからこそ会計は俺の答え聞きたかったのかねえ。
めんどくさいぬ、恋には個人差がありますはい終わりー。
「恋なんて、辞書でもひいて調べたらいいよう、考えるの飽きたし疲れちゃいますねえ。あと会計うにゃい」
「あーあー君ほんと馬鹿。いつか必ず泣くだろうにさあ」
「知ってる」
それでも運命の人に会っちゃったんだから、仕方ないのだ。
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