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にまにまする頬をひっぱりながら教室に戻る。
「ぬ?」
向かえば向かうほどざわざわとした空気が広がってる。
なんであろー?
しかもただ騒がしいとかそういうんじゃなく、やーな感じの、敵意のあるそれだ。
「転校生かねえ」
この時期の騒ぎの原因といえば転校生しか考えられない。
って待て待て。
教室→騒ぎ→転校生、とくれば、
…→柚弦…?
…。
「ぬ、ぬおおお!」
柚弦が転校生に巻き込まれてるに違いにゃー!
騒ぐ生徒の中を駆ける。「高南が走ってる…!」とか聞こえたけど、俺だって基本的に二足歩行で生活してるので余裕でっすよ。
まあ、俺を走らせることができちゃうのは柚弦くらいかな、きゃっ。
なんてこと考えてたら、知らない人にぶつかった。
怒られた。
うええ、今日は柚弦が足りてないのにやなことばっかおこるよう…。
ようやくたどり着いた教室の前には生徒の山。
「きゃああああ会長!!!」
「うおおおおお副会長!!!」
以下は推して知るべしな叫びと転校生への罵倒の言葉。
クラス内とでは比較にならない敵意の視線にちょっくらびっくりです。
噂では色々聞いてたけれど、こうしてはっきりと見たのはもしかして初めてだぬ。
まあ、避けてたもの転校生!柚弦は渡さにゃー!
様子を察するに、転校生ラブな生徒会の皆さまが直々に転校生を迎えにきたとかそんなんだろう。
しかし流石学校のアイドル、ファンの数がはんぱにゃー…。
教室の中が見えないよー。
柚弦が見えないよー。
「会長さまあああそんな奴に触らないでぇえええ!!」
「あっのーう、すいまっせーん」
「あああ副会長の綺麗な手が汚れてしまう!!!」
「中入りたいんでーすけどー」
「ほんっと転校生図々しい!!」
「入りたいぬー、柚弦かっこいーぞー」
「あんなもっさい転校生にまとわりつかれてるなんて、皆様が可哀想!」
「会いたいよーう、柚弦かっこいーぞー」
「お優しい書記様が何も言わないからって、調子に乗らないでよね!!」
「柚弦かっこいーぞー」
「柚弦かっこいーぞー!!!って、え、どうしたの僕!?」
俺の教室に入ろう大作戦は生徒一人を洗脳する結果に終わった。
ぐぬぬ。
お昼休みが減っていく…!柚弦に癒してもらう時間が減っていくううう!
せめて中の様子を伺おうと耳を傾ける。
「…から、いいじゃん!!!」
お、聞こえた、相変わらず転校生は声がでかいぬ。
「…、…約束が、……って…、…」
柚弦だ!柚弦の声だ!
ちっちゃいけど確かに聞こえた!
やっぱり巻き込まれてたのかああ…!
これはもう突入しかないぬ…!!
「こうして、少年の目に光が宿った…。そう、彼は立ち向かうことにきめたのだ、大きく厚いその壁に…」
もちろん誰も聞いてなかった。
ていうか周りがうるさすぎて自分でもよく聞こえなかった。
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