09
「せんせーこそ、転校生のどこがよいの」
妙な恥ずかしさを誤魔化すために、今度はせんせーに話をふった。
せんせーだけじゃなく、クラスの取り巻きに生徒会メンバー、転校生を好きな人はいっぱいいる。
どこがよいのか気になっちゃうよねえ。
だって、それ以外には若干転校生嫌われてるもんねえ。
もちろん大好きな人とられちゃったって人もいるけど、性格的にちょっとあわないっての、えーと1週間?もう転校生来て2週間たったかな?それくらい過ごしただけでも分かり始めたし、それはどうやら俺だけじゃないみたいだし。
クラスでは柚弦が普通に接しているせいか(そんでもって転校生も柚弦には弱いせいか)、そんなひどい扱いはないけど、好きな人が関われば小型犬だって簡単に牙をむいてみせるのだ。
ちょっと、荒れはじめたんじゃないかぁこの学校、って、俺が感じちゃうくらい変えちゃったのは、転校生なのに。
かしょんかしょんって手を動かしながら先生の返事を待つ。
…何故ためる。
焦らす作戦なのかこれ。
せんせーがやっと口を開いたのに合わせて顔をあげれば、またしても意地悪い笑顔が見えた。
「お前にゃ教えてやんねぇ」
「何それぇ!理由くらいいーじゃんかー!柚弦に八つ当たりするくらい転校生気にしてるくせにー!」
「だって峯ムカつく」
「大人気にゃー!!!」
結局転校生モテモテの謎は明かされなかった。むう。
勢いでばしばしとめ続けたプリントもあと一束。意外とせんせーとのお話も楽しかったけど、早く柚弦のとこ行きたいぬーん。
俺が口をとがらせたまま紙を持てば、せんせーがため息をつく。
「お前がノンケだろーとなんだろーと峯好きなのと同じでよ」
かしょん、と俺が声を出すかわりにホッチキスが頷いた。
「俺様が幸高好きで何か悪ぃか?」
開き直るような口調で言ったせんせーがやっと意地悪くない笑みを浮かべて、不覚にも、それはちょっとかっこいーと思えるものだった。
ふにゃんと紙とホッチキスを机に投げ出す。
「おわったー、こーきくん帰りまーす」
「おー、今後俺様の授業ぶち壊すんじゃねぇぞ。あとどうせ見るなら峯じゃなくて俺様にしとけ、俺様の方がかっこいいから」
「えー、俺が柚弦見ないとか無理でっすねえ」
自分大好きなせんせーに手をひらひら振って、準備室のドアを開けながら振り返る。
「でもせんせー」
「あん?」
俺が散らかした紙の束を律儀に整えてるせんせーににたぁと笑いかける。
「せんせーの年で未成年に手出したら犯罪じゃん?」
「黙れ」
言うだけ言って急いでドアを閉めれば、ごんっとなにかが当たる音がした。
あぶなー、あぶなー。多分投げてきたのホッチキスだよねぇ。
せんせー、生徒に物投げるのに躊躇しなさすぎるよー。
「さーて、柚弦とおっひっるーう!」
にへぇと笑みが浮かんできて、ちょっと落ちつくまで、のんびりと階段を上った。
ちょっとくらいゆっくりでも、柚弦は絶対待っててくれるもんねぇ。
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