金木犀香る10月。


生徒会室で無駄に豪華な椅子に身体を預けた僕は、手に持った書類に再び目を向けた。

『副会長・1-S 八雲 直』

何度見たってその文字は変わらない。
間違いなく僕の名前だ。
それに目を細めて机に突っ伏した。

今日は今期生徒会初めての召集日。早く来たせいで時間を持て余してしまった。
てっきり会長や会計あたりはもう来ていると思ったのに、まさかの僕が一番乗りだなんて。
…なんだかすごく張り切ってるみたいで恥ずかしい。

日の当たった机は暖かくて、そのまま目を閉じれば、蘇るのは一週間前の生徒会選挙。

選挙というか、ただの人気投票だった。

全国から金持ちが集まる私立森帝学園高等部の生徒会は立候補でもなく推薦でもなく(いや、ある意味推薦なのか)、顔の良さ家柄の良さで決まる。
それには色々な理由があると言うが、結果として生徒による生徒評価の儀式となっているのは否定出来ない。

もちろん生徒による評価で副会長という任についたことは光栄であるけれど。

けれ、ど。

私立森帝学園。
男子高校。
しかも全寮制。
しかもしかも山奥。

そんな要素が重なって、この学園は同性愛者、いわゆるゲイ、またはバイが9割を占めている。
つまりは、そういった意味で大人気なのだった。

副会長として自分の名前があがった瞬間起こった男の黄色い悲鳴を思い返して、ため息をついた。

べつに初等部から通っている僕にしてみればそんなことは今更で、そこに抵抗があるわけではない。
小さい頃からちやほやされ、自分の顔立ちが人より整っているのも自覚している。

本当のところを言えば、自惚れでも何でもなく、自分が選ばれるだろうと、予想はしていた。

けれどやはり予想するのと、実際その気持ちをぶつけられるのでは全く違う。

もちろん今までだってそういうことがなかったわけじゃないけれど、学園の「人気者」と「生徒会」ではやはり扱いが違うのだ。

これが一年間続く。

今後の高校生活とか、生徒会の仕事とか人間関係とか。

それらを考えると、ため息が止まらなかった。

「…早く誰かこないかな」


呟いて身体を起こしたとき、バンっと生徒会のドアが開いた。


「あっれー、ナオりん早いねー☆」

「豊先輩」

綺麗に染められた金髪に揺れるピアス。

今日も素敵に軽いひとだなあと内心思いつつも名前を呼べば、ドアを開けた勢いのまま抱き着かれた。

「俺が生徒会一番のりと思ったのにーっ!」

「それはすみません、とりあえず離れてください」

開けられた胸元にあるネックレスが頬に当たって地味に痛い。
スキンシップの激しい先輩をべりべりと身体から引き離すと、不満そうな顔をしている先輩の髪に手を伸ばした。

「先輩、髪また染め直したんですか?」

確か生徒会選挙で一緒に舞台に上がったときは、もっと暗い茶色だったはず。

何度も色を変えているのにサラサラと流れる髪を梳くと、さらにぐりぐりと頭を押し付けられた。

「そうっ!わかる?わかる?心機一転さらに明るくしてみましたいえーいっ!」

「明るい色も似合いますね」

余計軽く見えるとはいえ、華やかな色はこの人に馴染む。

「ナオりんに褒められるとかなにそれ照れる!けどナオりんの髪色も好きー!!綺麗ー!」

「僕は地毛です」

「知ってる、口説き文句ー☆」

美人さんだねぇいいねぇ、と笑顔が向けられて、僕もにこりと笑い返した。

「豊先輩もかっこいいですよ」

「ぐはっ、副会長スマイル萌ゆるーーーーー!!!」

もゆ…?
思わず傾けた首もそのままに、突然叫んで床を凄まじいスピードで転がる豊先輩を目で追う。

先輩がドア付近まで転がったとき、がちゃ、と再びドアが動くのが視界に入った。

「あ、」


ドアを開けた主はもちろん足元に転がる先輩に気付くはずもなく。
予想通り無造作に開けられたドアに跳ね返されて(なんかすごい音した)、先輩が綺麗に僕のもとへ転がって返ってきた。

「でえええぇまたナオりん!?オレ今ナオりんから離れなかった!?はっ、テレポート!ナオりんのオレへの愛でテレポート!!っていうかなんだろう身体が痛い!腰が超痛いんですけどなにこれ、え、何、今何が起きたの超身体痛いうぇえええっ!」

「泣かないでください」

あと床に鼻水つけないでほしい、絨毯ってなかなか洗えないので。

そのまま床を汚されても困るので、転がったままの先輩を抱き起こす。

………絨毯汚されるのに比べれば、制服が涙でぐしゃぐしゃになるくらいどうってことない。……ない。

「…ち、三番目かよ。…あ?」

そんな僕ら二人を見て舌打ちをした人物こそ生徒会会長。
兼、幼なじみの南冬哉。

先輩を抱えたまま元凶とも言える(いや正しくは全体的に先輩が悪いのだけれど)南を睨めばぱちりと目が合った。

「何してんだ、お母さん」

「来るのが遅いですよ、お父さん」

「ふ、二人ってそんな関係だったの夫婦フゥフゥ!」


腕の中で騒ぎだした手のかかる子どもは無視させていただいた。



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