つまりは僕の遊ばれ損だ。
南のばか、と溜息をつけばむぎゅっと豊先輩に抱きつかれた。
「離れてください」
「心配しなくても、『いろは唄』の副総長が戦えないなんて情報流さないよ!」
信用できない、情報屋が情報を売らないだなんて。
上に立つ人間が弱いだなんて、弱点でしかないのに。
南の迷惑にしかならないのに。
そう唇を噛んで、思い当たる。
南がただ情報を流しただけとは思えない。
「…………もしかして、南。僕の情報売って、『族潰し』の情報得ましたね…?」
「許せ」
言い訳もなく謝る南に、それ以上なにか言う気も起きなかった。
「いいですよ、別に」
南がそう判断したなら、構わない。
どうせ、名前の由来なんてたいしたものではないのだ。
あまりにも僕が表舞台にたたないせいか、情報の価値自体はあるかもしれないけれど。
心配したところで、副総長が戦えないなんて弱点が知れ渡ったとしても、南のチームはきっと揺るがないだろう。
慶二先輩だって、からかいついでに裏付けをとるため僕の口から聞き出そうとしたにすぎない。
南から聞けばそれだけで価値ある情報になるのに、僕にまで確認をとろうとするあたり、情報屋としての格が伺えるというものだ。
…素直に話したくなかったのは、自分のプライドの問題だ。自分が戦えない、というのももちろんだけれど、慶二先輩相手といえども、屈したくはなかったというか。
南にしか、そんなこと許してない。
(そのはずなのに、どうして彼は)
ふと脳裏に浮かんだ淡々とした表情を、頭を振って追い出した。
「それにしても、南。いくら大好きな『族潰し』の情報を得られるからって、僕の情報与えすぎではありませんか」
「あぁ、ついでに勧誘したんだ、『でこぽん』の二人。そしたら入るってことになってさ。知っといた方がいいかと思って」
その言葉に思わず二人を見返せば、仲良くピースで返された。
「……それを最初に、言ってもらえますか」
色々考えて損した。
「名前の由来と言えば南、『いろは唄』の名前の由来は話したんですか?」
紅茶をいれ直して南に聞けば、すいっと顔を逸らされた。
「別にたいした理由じゃねえだろ、ただぶつぶつ言ってたら北島が気にいっただけだ」
「そうではなく、いろは唄も覚えられない南の記憶力を先輩は知っているのかと思いまして」
わざと挑発するように言えば、ぐしゃぐしゃと髪の毛を乱された。
「…知ってる」
頷いた慶二先輩に、髪をかき乱す南の手が荒くなる。
「つか、名前の由来聞くなら、『でこぽん』のが先だろーが!」
そう言われれば。
南と二人そろって豊先輩を見れば、わたわたと手狐を暴れさせた。
「待って、分かってる説明をさせて!だから『この人馬鹿なの?』って目で見ないで!」
特にナオりん!と手狐に名指しされて、首を傾げる。
豊先輩でも流石にそういった目線には気付くんですね。
その驚きが通じたのかはわからないけれど、南が僕の髪をひっぱったので、口には出さず豊先輩に続きを促した。
「オレと慶二が二人で情報屋始めたとき、テンションの差か何なのか『でこぼこコンビ』って言われててね?流石に高校生ででこぼこコンビて!てか語呂悪っ!!と、思って、考えたわけ!でこぼこ、でこぼこ…、…………でこぽん……?その瞬間オレはもうビビッときたね!!これしかない!って!」
「はあ…」
「あれ?目変わってない、あれ…?………オレと慶二が二人で、」
「えぇ、一応言いますけれど、聞いた上でこの反応です」
豊先輩の頭の緩さが強調されただけだった。
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