「…ああ、そういやお前のとこの親衛隊隊長呼び出してたんだった」
前の隊長とは随分タイプが違うんだななんてのんびり言う南に、安原が素早い動きで近づいた。
南に、というより僕にだ。がっちりと目が合う。
「俺も混ぜてください」
「はい?」
「俺も混ぜてください是非」
「っく、あっはははははははは!!!!」
真顔で言う安原に耐えきれなくなった南が吹き出して、やっと僕も起き上がった。
「こんにちは、会長。なんの御用でしょう。…ああ、副会長、髪を結ってない姿も素適ですね。触ってもいいですか、俺が結いましょうか、触ってもいいですか」
「南、なんで呼び出しなんてしたんです」
とりあえず客だ、アレを出せ!と南に言われるがまま用意した紅茶を3人分。それぞれ置いて、南に話を振る。
「いや、お前んとこの隊長が変わった、しかもそれが1年って聞いて面白そうだったから」
「そんな理由で……」
「紅茶おいしいです。嫁に欲しいです」
けらけら笑う南の足を踏みつける。
「いって!…オイ直、この親衛隊長が例の奴なのか?」
「…そうですよ」
耳元に囁かれて、同じく小さい声で返した。
おかげでやっと別れたばかりなのに会うハメになってしまった。
「ふうん、こいつがねぇ…。オイ、安原と言ったか?ふん、生徒写真で見るよりなかなか良い顔してんじゃねえか」
「隊長の安原千尋です。ありがとうございます、まあ副会長が惚れる顔ですからね」
「惚れませんよ」
ひたすら無視を続けていたのに、余計なひと言にうっかり口を挟んでしまった。
「やっと相手をしてくれましたね。俺以外と話すあなたの口なんて塞いでしまおうかと思いました」
にっこりと笑う安原にぞわっと毛が逆立つ。
「気持ち悪い…」
「あっははは、こりゃ確かにいなかったタイプだわ!!」
「南!」
「はいはい、わかったわかった、ふざけんのはここまでだ。…今回は一応忠告だ」
「忠告、ですか」
会長の顔になった南に、安原もしっかりと向き直った。
「隊長ならわかってるだろうが、親衛隊の中には過激な奴らも多い。しかもぽっとでの1年が隊長なら、尚更やっかみも多いだろう。…そこんとこ、うまく立ち回れよ。てめぇは制裁だなんだやるよーにゃ見えねぇが、こっちだって暇じゃねぇ、この俺に手間かけさせやがったら、この俺の学校荒らしやがったら、容赦なくお前を見限る」
そういう南は、自分の幼馴染ながら格好良い。
「やれるか隊長」
「…それは、……」
初めて安原が言い淀む姿を見て、けれど、南相手なら仕方ない、と思わされる。
自分が支えたいと思った人くらいには適わなくたっていい。……たまには、ですけれど。
そのまま南を見つめていれば、揶揄う表情に変わったのが分かった。
「やれなきゃ直だってやらねぇ」
「やります頑張ります直は俺がもらいます」
「さりげなく名前呼ばないでもらえますか」
「あっははははは!!」
再び笑いだした南の足をもう一度踏みつけた。
お返しとばかりに頬を引っ張られる。
「覚悟しとけよ、直。春がくるかもしんねえぜ?」
「うぅしゃい…!」
「はははは!!」
うるさい、とうまく言葉にならなかったのを笑う南が気持ち悪い。
機嫌が良すぎて気持ち悪い。もしかしたら安原より気持ち悪いかもしれない。
「副会長かわいい副会長副会長今のもういっかい言ってくださいかわいい何それかわいいかわいい欲しい」
いやごめん南、安原の方が断然気持ち悪かった。
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