安原との半分以上無駄だった接触を終えて、生徒会室。

「おう、来たか直。暇してたんだ構え」

「気持ち悪いですね」

無駄に豪華な装飾のなか、これまた無駄に豪華なソファに寝転がる南に思わず鞄を投げつけた。意外と遠くて届かなかった、屈辱。

「先輩と、庶務の双子はどうしたんです?あ、鞄は僕の机にお願いします」

わざわざ落ちてた鞄を拾って手渡してきた南に、恥ずかしさもあってそっけなくお願いすれば、南も慣れたものでにやにや笑いながら置いてくれた。

「先輩達はゲーセン。ついでに双子は兄が頭痛、弟は双子の神秘で一緒に休み」

「どう考えてもサボりでしょう、南の人望がないせいですか」

「お前が来てんだからそれはねぇ」

「決め顔やめてもらえますか、南のために来た覚えはありませんよ。生徒会役員としての義務です」

黙った南に、少し自尊心が回復する。

…いつもは、こうなのに。

なのに安原千尋、あの男だけはどうしてうまくいかないのか。

ぼふっと、南にならって豪華なソファに身を預ける。

「で、そういうお前は今までどこ行ってたんだよ?」

「え?」

南を振りむけば、目の前に広がる整った顔。

「…髪が乱れてんぞ」

そのまま緩く結っていた髪を解かれた。さらさらと髪を梳かれて、流れで押し倒される。

「こーやって、襲われでもしたか?」

にやにや笑う南に、安原の顔が嫌でも思い起こされた。

「そんなことない…の、かな………?」

だんだん尻すぼみになる僕の言葉に南が目を見開く。

「おい、マジで襲われたのかよ?」

「いえ、襲われたというよりむしろ、………遊ばれてる…?」

「遊ばれてるだあ?お前が?」

言いかえればからかわれてるのだ。淡々として、殆ど無表情で、思いだしたように触れては解放する。あの体格に本当に襲われたら、きっと抵抗なんてできない。それでも危機感を感じないのは、相手に襲う気なんてないからだ。

…だからやりづらいのかもしれない、彼の相手は。

溜息をつく僕に南が豪快に笑った。

「お前が!遊ばれてるって!!あっはは、何だそいつ!ははは!!」

「笑わないでもらえますか…。というか心配の一言とかないの」

「っはは、悪ぃ悪ぃ…っくく、心配っつってもよお、お前、それ襲われた奴の態度じゃねぇだろ」

むに、と頬を摘ままれる。言われればその通りで、南の手を払いのけて顔をそらした。

単純に襲われるとかじゃなく、もうよくわからない、あんなタイプは初めてだった。

とりあえず変態だということしかわからない。
気持ち悪さが強すぎて、恐怖心とかそういったものが飲み込まれているのだろうか。

「僕のこと、猫かなんかだと思っているんじゃないですかね」

「あ?お前見た目からしてネコだろ?」

「………………………」

「俺が悪かった、悪かったからなんか言え、ここは頼むからなんか言ってくれ」

南の情けない顔を見たところで、口を開こうとすればがちゃりと唐突に生徒会室の扉が開けられた。

「え」

「あ?」

押し倒されたままの僕。しかも髪も解けたまま。

加えてソファの上。

間違いなく誤解される、校内新聞に会長と副会長がカップルだなんてそんな不快なことを載せられたらどうしよう。というか、ノックもしないとかどうなの。

なんて考えが頭の中を駆け巡ったまま入り口を見遣れば、高い背の凛とした、

「あ、んはら…?」

ちょっと前まで一緒にいた彼と早いご対面だった。





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