「…そろった、か」

「ひゃっふー!けーいくーんっ!」

南のあとに続いて現れた日向慶二先輩に、ぱっと顔を輝かせた豊先輩が僕のもとを飛び出す。

「ん」

「あ、ありがとう、みな、っむ!!」

背中に添えられた手にその反動で揺れた身体を支えられて、見上げれば顔に押し付けられるタオル。

「む、う」

そして何故力強く顔を押さえられ続けなければならないの。

前も見えなければ息も出来ない。

え、なにこれ殺されるの。

はしっと南の腕を掴んでも当の本人は「庶務がいなくないっすか」なんて悠長に日向先輩に話しかけていて、それとともに「病欠」だなんて冷静に返す先輩の声が聞こえた。

…誰もこの状況に疑問を抱かないの…?

「むぐ…っ」

病欠どころか僕今本当に死にそうなんですけれど……。

無駄に力強い南の腕は外せなくて、苛立った僕はだん!と南の足を踏み付けた。

「ってぇ!」

「ふはっ…」

ようやく入り込んだ空気を吸えば、ぺしっとタオルで頭を叩かれた。

「っにすんだ、直!」

「こっちの台詞ですよ、窒息死させる気なの!」

「あ?」

南は手に持ったタオルと呼吸困難で真っ赤になった僕の顔に視線をやって、それからにやりと笑みを浮かべた。

「あぁ悪ぃ、涙で濡れた胸元拭いてやろうと思ったんだがまだ顔だったか」

身長差考えてなくて悪い、だなんて白々しく謝られる。

「少ししか変わりません!」

わざとだ。
絶対わざとだ。

絶対生徒会室に一番に来れなかったこと根に持ってる。豊先輩にも先越されたくせに。

「なんだ、身長気にしてんのかよ?昔はお前の方が高かったしな?」

「気にしてません」

「はいはーいっ、夫婦喧嘩はそこまでっ!」

わさわさと今度は頭に乗せられたタオルを豊先輩が取り上げた。

「いちおーメンバーそろったことだし、生徒会の初顔合わせ、兼、引き継ぎ行いまーすっ☆」

豊先輩に先導されてソファに座る。既に日向先輩は座って僕らを待っていた。

「…すみません」

「…構わん。立つ、たるい、だけ」

低く静かな声が僕を落ち着かせる。
なんていうか冷静になってみれば、ムキになってしまった自分が恥ずかしい。
思わず先輩に返してもらったタオルで口元を覆って俯いた。

…南、横でニヤニヤしないで気持ち悪い。



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