かといって俺は俺で直は昔から見てきてるわけで、ガキみてぇに部位に興奮したりはしねえ。

「こいつ苛めてやりてぇって時が一番興奮する」

「ええ〜…?いや、みなみんらしいっちゃらしいけどさあ」

いいだろうが、外見より中身っつってんだぜ?

「じゃあはい、例えば?」

「委員会で遅くなった俺を直が待ってたときとか」

「そこで興奮するか!!」

「するだろ考えてみろよ!」

校門で一人佇んでる直。
人気もそれなりだから、通る生徒ほとんどに声を掛けられて、それに穏やかに笑って返す。
それが、俺を見つけた瞬間嬉しそうに笑って駆け寄ってくるんだぜ?そして近くにきたらきたで、手冷えたので、温かいの買ってくださいとか、とってつけたように言いやがる。あ、これ冬の話な。で、別に待ってろとか言ってねーよとか言うと拗ねて、僕もたまたまいただけですっつって、とっとと先行くし。まあ行先同じ方面だし、そのあとを歩いてったら、直が待ってて、「はい」ってホットのお茶渡されてよ。「風邪、引かないように気をつけてくださいね」って言って逃げるんだぜ。


「てめえが風邪引くなよ寒いの苦手なくせに!って興奮したわ」

「そこで興奮するか!!」

「いや、あの直がだぜ?もうツッコみどころありまくりじゃねぇかよ。そういうの言葉攻めしてぇってとき、ヤバい」

「みなみんて本当、性癖Sなんだね…」

「直が恥ずかしがり屋すぎるのが悪ぃ」

あそこまで白い肌を真っ赤にされたら、なかなか男としてはイイもんだろ。普段のかっわいくねえ性格も相まってよ。

「オレには照れてくれないのに…」

「そりゃまあ恥ずかしがり屋にも選ぶ権利がな」

「どういう意味だろう!!!」

バッと床から先輩が立ち上がった瞬間、がちゃりと生徒会室の扉が開いた。


「あれ、まだ終わってないんですか」

「な、なななナオりん!!!!」

「?はい」

話題が話題だからか、きょどる先輩に直が不思議そうに返事をした。まあいくらなんでも自分のあれやこれや話されてるとは思わねぇだろう、こいつ変なとこ鈍いし。

「で、どうしたよ、直」

「まだ仕事が終わらない人たちに夜食持ってきてあげました」

はい、と手渡されたバスケットにはサンドイッチ。そういや飯も食ってなかったか。
いくらか野菜の量が多い。

「シェフに感謝してくださいね。この時間にわざわざ作ってくださったんですから。身体が資本だからって」

「はいはい、それはどうも」

机からソファに移動して身体を伸ばしていれば、直が紅茶を運んできた。

「助かる」

「いえ、お礼はいいので早く仕事終わらせてください」

「は、かわいくねえの」

もぐもぐとサンドイッチを口に頬り込む。直は直でバスケットを持って帰るからなのか、隣で大人しく紅茶を飲み始めた。


…あ〜……別に、わざわざ豊先輩の前でいじめてやる必要もないんだが。
色々話したあとだし、本人に来られると、なんか、そういう気分にもなるってもんだ。

「やっぱパンうめぇ…」

「はいはい」

適当に話を流す直に、続けて口を開く。

「明日の朝もパンにすっかな」

「はあ」

すごくどうでもいいという顔をする直に、自然と口が緩んだ。

「つって確か俺の部屋にパンもうなかったんだよな。だから明日お前んとこいく」

「えっ」

分かりやすく直の肩が跳ねる。きょろ、と少しだけ視線が彷徨った。

「僕の部屋にも、パンないですけれど…」

「あ?昨日は十分あっただろうが、一日でんな何に使ったんだよ?」

「………」

ぐっと黙り込むその頬がほんの少し色づく。
が、こんなんじゃまだ足りねえ。直が自分から言うはずもなく、仕方なくとどめの一言を放った。

「何人分かサンドイッチとかでも作ったのか?」

「え、これナオりんが作ってくれたのっ!?」

「違います!」

そう反論するも、もはや頬は真っ赤だ。あーあ、これだけでそんなにかよ。

くつくつと笑っていると、直が突然立ち上がって扉まで走っていく。
逃げやがった。ま、顔色は十分変えてやったし素直に逃がしてやるか。

そう思いつつ直を眺めていると、くるりと振り返る。

「都合よく、解釈するのも自由ですけれど、それはそんなんじゃないですよ。…ただ、南がこうして遅くまで残るのは珍しいから、何かあったのかなって。だからサンドイッチなんかは口実で、ただ様子を見に来ただけで、」

そこで一旦息を吸って、俺を見た。


「口実なんかに浮かれちゃって、ばかみたい」


言い終わるやいなや、直は身を翻して生徒会室を飛び出していった。


静寂が戻った部屋で豊先輩が、なるほど、と手を打つ。


「で、みなみん、ムラムラすんのもいいけど、お仕事はまだあるからね」

「……うす」




end
→あとがき



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