がっと勢いよく俺の副会長を見る。
会長と笑ってるだとか、そんなことはどうでもよくて、ただただ笑顔を見たくてついに顔を上げたその先には。
「………なにしてんですかあんたたち…」
予想外だった、いや予想以上だった。何がって、体勢が。
いや、ご褒美だとかなんとか、聞き逃せないことは言ってたんで、多少は覚悟してましたよ。近いんだろうなとか、必要以上にべたべたいてるんだろうな、と。
それがどうして。
「キスする5秒前って感じですけど」
いや盛りました、自分のために今盛りました、キスする2秒前ってとこでした。
近いどころか。
俺の副会長は会長に指で顎を支えられて、ついでに逃げられないようにか腰にまで手が回った状態で、お互い見つめあってました。
「…恋人ですかあんたたち」
っていうか恋人でも流石に堂々と人前でキスはしませんよ、なんなんですか、ほんともうなんなんですか。
そんなに俺にカップ割ってほしいんですか。俺いじめですか。泣いた方がいいですかむしろ泣かせてください。
「はい?何変なこと言ってるんですか?」
変なことを言いましたかね。いやおそらく俺の副会長は「会長と恋人なんてありえない」という意味でそう言ったのはわかってるんですけどもね。
あんたこそわかってんですかね。
照れ屋なあなたがそんな体勢を指摘されて、平静でいるなんて。
それこそ、その距離が二人にとって特別じゃないって、言ってるのと同じなんですよ、ねえ直。
「あー、と、あれだ、これはだな、睫どっちが長いかって話になってよ…」
いまいちわかってない俺の副会長の代わりに会長が言い訳をはじめた。
言い訳。というか、まあ事実なんでしょうが、言い訳のようにしか聞こえません。
なんでそんな話題になったかなんていまさらつっこみませんよ。
「…向き合って合わせてみたところで、長さわかるわけないでしょう、あんたら馬鹿ですか」
だからついとげとげしくなるのも仕方ないというか。
そこで会長にため息つかれてもいらっとしかしません。あ、嘘ですむかつきもします。
「だいたい安原が悪いんだろーが」
「は?」
この責任転嫁はさすがにカチンとくるものがあります。
「俺がどう関係して、」
「親衛隊長のくせに、直放っておきやがって。これで俺じゃなかったらどうなってたことか」
「……」
いや会長だから放っておいたんですが。放っておくしかなかったんですが。
ていうか、一応自分じゃなかったらまずい体勢だとは理解してんですか理解してこの体勢ですか、実は喧嘩売ってますか。
「隊長失格だろーが」
それこそ言い訳でした。
つい、情けない反論をしてしまう前に、くい、と誰かが俺の袖を引っ張った。
誰かなんて、考えるまでもなく。
その力加減は俺の副会長のものだった。
「ふふ、安原、隊長失格ですって。副隊長と交代します?」
なんて。
俺を見上げてからかうように、笑う。
「…っ……」
ただでさえ、花だと、しかも高嶺の花だと形容される俺の副会長が、それこそ花のように笑ったら。
―――守ってやりたいと、思うに決まってるでしょう。
可愛くて綺麗で、小さなそれを。
凛とした、花を。
いじめたくて、暴きたくて、嘘でもなんでもつかってぐずぐずに、泣かせたい。そんな欲望が溢れて溢れて止まらなかったのに、こうして笑顔を見せられてしまっては。
「安原?」
「…本当に、可愛いですね」
「可愛くないです」
俺の手を叩き落とす直の後ろで、会長が苦笑するのが見える。俺が見ていたいのは俺の副会長だから、その顔を見たのはほんの僅かだったけど。
あの言い訳も、俺というより俺の副会長に向けてか、とわかってしまった、のは少しばかりむかつく。
イライラしたままでは、空気を悪くしたでしょうね、俺の副会長に何を言ったかもわからない。
会長が悪役になってくれたから、ふざけて場をおさめてくれたから、俺の副会長も笑みを見せたのだ。
…悪役といってもそれは俺にだけで、しかもそれも一瞬だけってのが本当腹が立ちますけど。
「じゃ、俺仕事終わったから先寮帰るな」
「あ、はい」
自分は自分て幼馴染みとべたべたしといて、そのくせこうして最後にはきっちりこっちを立てていくのだから。
流石俺の副会長がだいすきな会長だなあと。
…でも、どうして最後俺の副会長の頭を撫でていったんですかそれやる必要が今どこにありましたかやっぱり喧嘩売ってるんですかそうなんですね一回殴らせてもらってもいいですか。
なんて。
恩を感じさせないためにわざとそういう態度をとったのだろうかなんて、憶測。
しかも褒めるような憶測はすぐ頭の中から追い出した。
End
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