「…とよとみ」
「もっきゃあああああ!!」
オレにとっての禁句を思いっきり口にした慶二に飛びかかる。
その瞬間ぐるって視界が回ってオレのいたいけな身体は生徒会室のふっかふかなソファにめり込んだ。
うん、もう一回言おうか、めり込んだ。
「あれなんだろう心が痛い、身体も痛いけど心が痛い」
「お前、…次期、……どうする」
涙ながらの訴えをシカトとか!!!
けどまあ許してあげようね!お兄さん優しいからね!
それでも一応主張すること大事ってわけで、大げさによろよろと痛む心に手をあててめり込んだ身体を起こす。
「どうする、ってー、決めるのオレじゃないしー?」
そろそろ、10月。
生徒会選挙の時期。
慶二が会長なのも、オレが会計なのも終わりがくる。
「あっれ、もしかして慶二寂しい?寂しい寂しい?この生徒会終わっちゃうの寂しい?あらやだかーわーいーいー!」
「キモ」
お母さんお父さん、聞こえますか。
可愛い可愛い息子は一年一緒に頑張ってきた仲間に舌打ちをされました。
「世知辛い!!」
「………」
「ついには無言!」
冷たい視線に心の傷口を抉られながらも、臣くんはこんなことでめげたりなんかしません。
いつもと同じように見えて、やっぱりいつもとちょっと違う慶二ににへらと緩い笑みが漏れた。
「楽しかったよ、オレ」
慶二と、目が合う。
一年、 なんだかんだ楽しかったよ、て、もう一度言えば、慶二の口元が緩んで。
オレとは全然違う落ち着いた目に、きっと初対面の子でもわかるくらい感情が宿る。
こいつ馬鹿?って。
「お前…なんかした?」
「世知辛いいいいいい!!!したよ!超したよ!オレちゃんと役員だったよ!めんどくさがりの慶二の代わりにいっぱい喋ったし!」
「耳触り」
「みんなの心のオアシスだったじゃん!」
「ストレスの泉」
「あっれええええ!?」
実家のタロー(犬)、聞こえますか。
お前の御主人は一年一緒に頑張ってきた仲間に存在を全否定されています。
「ちょっと!寂しいなら寂しいって言えばいいじゃない!!次もお前と生徒会役員やりたいって言えばいいじゃない…っ…!」
「嘘…つけない……」
「何純情ぶろうとしちゃってんの!?」
慶二が超楽しげだった。
いつもと違うって、寂しいとかじゃなくて超楽しげだった。
いいもんいいもん、わかってたもん、こいつこーいうやつ!!
超堅物、オレの苦手なタイプのオーラばんばん出してるくせに、フタ開けたらこんなんだかんね!
めんどくさがりにも程あるよ!
マジ会長たるーみたいな、真面目な顔しといて!
「オレと生徒会がそんな嫌なのっ…もう泣いちゃうっ鼻水つけちゃうっ…!」
がっと顔を慶二の服になすりつける前に、デコをがしいっと掴まれた。
「あれ、痛い、これ止めるどころか全力で握りつぶそうとしてない?あれ?ねえちょっと?」
「聞け」
涙ながらの訴えをシカトとか!2回目だよこの短時間で!仏の顔も3度までだよ!
うん!だから今のはお兄さん優しいから許しちゃう!!
大人しく黙ると、慶二も手の力を抜いた。相変わらずデコ掴まれてるけど。
「お前と…生徒会……嫌じゃない」
それなりに(からかうのは)楽しいし。
相性が悪いとも思わない。
今更パートナーを作るのも面倒だからお前でいい。
ぽつぽつと、ゆっくり慶二が言う。
面倒臭がりな慶二はちゃんと言葉にしないことも多いけど、点とか点とか一杯挟むし、正直そっちの方が面倒じゃんって思わなくもないけど、言い終わるまで大人しく慶二の言葉に耳を傾ける。
「…次、…会長、ない…。きっと、書記で、お前…会計……」
慶二が会長に選ばれたのは、ほとんど、卒業した3年生が入れたのが大きい。
慶二はすげーやつだし、今年だって会長やり遂げたし、でもどうしたって。
慶二はめんどくさがりだから。
能力あっても向き不向きがあるっていうか。
「慶二顔はどっちかっていうとパッとしないもんね!」
ひざ蹴りされました。
強制的にオレを黙らせて慶二が続ける。
「…俺もお前も、…選ばれる」
役職は違えど、きっと。
ていうか、今まで校内に流れてる噂からしても。
それはいい、もう断るのも面倒。
お前も、同じ生徒会、それも別にいい。
ただ。
ぐ、とオレのデコを掴む力が強くなって。
「お前の下………無理」
「ぷぎゃぽっ!!!」
顔面ソファに叩きつけられました。
あ、ソファか☆とか安心できないからね!超痛いからね!ふかふかをも凌駕した容赦のなさだからね!!
「ちょっとおおお!!理不尽にも程があるよ!!もう怒った!3回目はもう怒った!」
いやね!?
確かに、役職投票数順に会長、副会長、会計書記庶務だけどね!?
「なにその俺様丸出しな感じ!?仕方なくね!?それこそ決めんの生徒だかんね!?」
「うざ」
もきゃああああああ!!!
「ムカつくう!超ムカつく!!」
「こっちの台詞。…だから、辞退」
「え!?慶二辞退するつもりなの!?」
「お前…しろ」
「もっきゃああああああああああ!!!!」
なにこいつムカつくうううう!!!
一年上手くやってきたつもりだし、こういう扱いも慣れっこだけどムカつくうううう!!
「もう慶二の馬鹿馬鹿ばーかっ!オレはねえっ、楽しかったの!会計とか会長とか関係なしに、慶二と生徒会やってんの超楽しかったの!!」
そりゃオレって馬鹿だし。
慶二の言う通り、何もしてないかもしんないし、まあサボったこともいっぱいあるけど。
「辞退なんかしませんよーだっ!精々オレの下で働きたまえ!!」
びしいっと慶二を指差す。
「…お前も…下。………一年の」
最後に付け足された慶二の言葉にすぽーんと怒りが抜ける。
「…あれでしょ、一年で、有名な二人でしょ?あと、夜の街でも」
へら、と笑みが浮かんだ。
「きっれいな顔してるもんねえ、間違いなく会長、副会長に選ばれるよ」
「……………いいのか」
いつもより溜められた言葉についぶはっと噴きだした。
いいのかって、ねえ、ダメな理由がないじゃん?
「あのさあ、オレがそーいうの気にするよーに見える?一年だからどうとかさあ、…そりゃまあ、先輩方にとっちゃ気に食わない部分もあったかもしんないけどねえ?」
初の一年会長。
しかも、先輩の票を集めて。
生徒会に選ばれるような人がどんだけプライド高いかって、オレだってわかる、一緒にやってきた中で、オレだってわかる。
大変だなあ、慶二も、って、まあだからといってオレは特別何かしたわけじゃないけどね?
何もしないで、仕事サボって怒られて、いたらいたでへらへらして怒られて、慶二がんばーって応援したら逆に怒られて、可愛い子とにゃんにゃんしてたら怒られて、あっれなにこれ怒られてばっか?
「オレは何とも思わないし、むしろ後輩に目の保養いてくれて嬉しいし!…こーいうのさあ、慶二はどーせめんどくさがりそうだから言わなかったけど」
ずるずるとソファに身体を預けてオレを見下ろす慶二に、ぱくぱくと手狐を送る。
「いつもお疲れ、会長。よく頑張ってんじゃん、お兄さんが頭なでなでしてあげよーか?」
「………」
黙ったままの慶二にもう一匹手狐を加える。
「なに!?なになに!?てれちゃった!?慶二照れちゃった?」
ふ、と、慶二が優しく微笑んで。
「……勘違い……イタい…」
うん?
「…ちょ、ちょっとおおお!?なにそれ!?勘違いって、何が!え!?」
「全て」
「待っておちついて!!ここあれでしょ!?感動する場面でしょ!?」
慶二のプレッシャーを俺が華麗に消化させたとこでしょ!?
自分で言うのも恥ずかしいくらい臣くんかっこいいことしました!!
「妄想…乙」
「でぇえええええ!?そこは嘘でも感動してよ!優しさが足りないよ!!」
「面倒」
「友情育んでええええ!!!」
結局。
慶二が何言いたかったのか、謎なわけで。
馬鹿なオレには、会長様が考えることなんてわっかんないけども。
「あ、慶二見て見て!噂の一年生はっけーん!!」
寮に向かう2人の姿。
きっと、一緒に働くことになる2人。
「あー、一年生可愛いなあ、半年前まで中学生だよ?」
「お前の、頭……園児」
「もきゃあああああ!!」
オレは馬鹿だし、へらへらしてて上も下もゆるゆるーてよく風紀とかに言われるから。
難しいことなんて一切コレっぽっちも考えらんないし、教えるなんて無理だけど。
楽しいなーって、多分オレが一番思ってるんだろうなって、それは自慢だからさあ。
「また、楽しかったーって言えるくらい…言わせられるくらい、次期も目立っちゃおっか☆」
「…………キモ」
仕方ないなあ、みんなみんな素直じゃないんだから。
「勘違い…乙」
End
→
あとがき
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