「どうやら俺は人気らしい」


真面目な顔で組んだ手の上に顎をのせる幼馴染を気持ち悪い、と切り捨てる。

「まあ聞け。俺が人気なのは今更だが、学校外でも人気急上昇中らしい」

「それこそ今更でしょう」

構ったからか、言葉の内容にか、ふん、と満足げに南が口端を釣り上げる。

自覚があるくせに褒められれば素直にこうして喜ぶ面は子どもっぽさが残っていて幼馴染ながら可愛らしい。

そう言えば、そんなことを言うのはお前くらいだ、と些かしかめた顔で返されたけれど。


「かっこいいですよ、とーやくん」

「馬鹿にしてんのかてめえ」

そうやってムキになるところがまた子どもっぽいのに。

「本音ですよ」

「お前は綺麗に育ったな」

「……きもち、わるい………」

「この俺が褒めてんだぞ、喜びやがれ」


と、いうか。

幼馴染同士で褒め合うって、


「なにそれ気持ち悪い」

「あ?」



完全に仕事をする気のない南がソファに移動してごろりと寝転がった。

こいこい、と南が手招きをするから、僕も大人しくペンを置いて南の向かいに座る。


「…呼んだのはそっちじゃねえぞ」

「どれだけ僕のことすきなんですか…」

仕方なく南の傍に移動して、よし、と頷いた幼馴染を見る。

南が寝転がっているせいで自然と見下ろす形になるのだけれど。


「おお、これが女王様にあこがれるやつらの理想アングルか」

「…そういう趣味なんですか?」

「いや、俺はそういう女王様を見下したいタイプ」

「俺様」

「褒めるなら可愛い顔して言えよ」

「色々ツッコミどころありますけれど、とりあえず」

目の前に掲げられた黒い携帯を取り上げる。

「どうしてカメラ起動させてるんですか」

「安原に自慢するため」

「ばか」

お返しにと取り上げた南の携帯のカメラを向ける。
それに気付いた南が動じることなく、ウインクを決めてみせて、つい手元がぶれた。
カシャ、とお決まりの効果音が鳴って縫いとめられたその一瞬は多少ぶれたとはいえ、南の色気が損なわれることはない。

「照れんなよ、直。画面越しだろ?」

「照れてないです」

ふざけたことを言い続ける南を放ってかちかちと勝手に携帯を操作する。

途中ロックがかかっていたけれど、適当に数字をいれてみたら簡単に開いた。


「あ?にしてんだ、直」

「メールです」

「ああ?」

訝しげな顔をする南に、にこ、と笑って用が済んだ携帯を返す。

「人気の南のかっこいい写真を、あなたの親衛隊長へ」

「アホかあああ!!」


隊長とは言っても、安原のような変態とは違う。

純粋で優しい先輩だ。

それを分かってるからこそ、あの俺様な南もさっと顔色を変えた。

「ば、俺のイメージが崩れんだろうが!!俺のかっこよさは俺がわざわざアピールしなくても伝わるからこそ素晴らしいんだっつの!」

流石に、自分で自分の写真(しかもかっこつけてウインク)をあの先輩に送ったという状況に狼狽しているのだろう。

気付く様子のない南に笑顔を零して、おそらく先輩宛てにだろう、作成していたメールを消す。


「オイ直、なにす、」

「う、そ」

「……あ?」

ぽかん、と目を見開く南の前にずい、と僕の携帯の画面を差しだす。

そこには、さっき撮ったウインクをしている南の姿。


「さっきのは、僕宛てです」

南を真似て、ぱち、とウインクをする。
固まったままの南に、怒っただろうか、と首を傾げたころようやく南の腕がゆら、と動いた。

「は、はは、はははは……」

乾いた笑いを零しながら、肩に置かれた手にギリッと力が入る。

「やってくれんじゃねえか、直…」

「ふふ、南のうろたえた姿というのもなかなか面白かったですよ」

「ほお、そーかそーか、でもあれだな、やっぱ、俺だけってのはよくねえな」

「はい?」



「撮らせろ」



言うが早いか、僕の上に乗っかった南が携帯のカメラを向ける。

「お前だけ俺のかっこいい写真持ってるなんてずりぃだろうが」

「意味がわかりません。ほら、消します、そうすればいいんでしょう?」

「この俺の写真消すなんていい度胸じゃねえか」

「なんなの」


重いのでどいてください、といっても南はカメラを構え続ける。

しまいには、ほら可愛い顔しろよだなんてにやにやしながら言い始める始末だ。

ふいっと顔を背ければ、むに、と頬をつねられた。

それでも無視をし続けていれば、よしよーし、と顔やら頭やらを南の手が滑る。

「とーや、」

「ち、しょうがねえなあ…」

がりがりと南が頭をかいた。

「じゃあ『冬哉好き』って言ったら許してやる」

「冬哉好き」

「早ぇな、オイ」

まあいっか、と笑った南の携帯から、ぴろりんと音が鳴ってようやく身体が離れた。

「え、」

「ああ、今のな」

携帯をひらひらさせて南がくく、と低く喉で笑う。


「ムービーだ」

「!」

「いくら直でも俺に勝つにはまだはえーよ」




「僕の携帯から先輩へさっきの写真送りますよ」

「すまん」



よいしょ、と仕切り直して仕事に向かう。

南の目を盗んでぱか、と携帯を開いた。


(まあ…結局送るんですけどね)


宛先はもちろん南の親衛隊長だ。


(ああいう顔した南を至近距離でとれるのは僕くらいですから)



同じころ、安原にも南からメールが届いたなんて、もちろん知る由もなかった。




End



幼馴染はお互いだいすき。


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