「ちょっと、風紀ぃいい!!なんで呼び出しなの!?オレイイ子してたよ!」

「ほーう?」


放課後突然呼び出された風紀室。ばんっとわざと音をたてて目の前の机を叩いて、天敵・風紀委員長をびしっと指差した。


「〜〜〜っ!」

「叩きすぎて手が痛いのか」

「ちちちちがうよぉ、このオレがそんなミスするわけっ…するわけっ……」

「いいから座れ。泣くな」

さっと出されたハンカチを素直に受けとる。黙ったのを見計らって風紀が本題を切り出した。
尋問さながらに。

「髪色は」

「金!かっこいーでしょ?」

「先輩には敬語を使え」

「金です…」

「ピアスは全部で」

「5個…」

「ネクタイは」

「なくなっちゃった」

「ボタンは」

「なんかねー、上の子たちとめられたくないみたい」

見た目に関する質問に素直に答えていくと風紀の片眉がぴくっと上がる。
こわいよー、顔にあんまり変化が出ないからこの人かいちょーよりこわいよー…。

「その身なりでよくイイコだなんだ言えたものだな」

「このくらい普通でしょ、オシャレな男の子としてはー。インチョーには無縁そーですけどー」

「美意識の問題じゃない、学校の品位の問題だ。生徒会会計であるお前がそれじゃ示しがつかん」

「かったいのー」

真っ黒な髪に眼鏡、きっちりした制服のインチョーはそういう気遣いが一切ない。ちょっと顔がいーからってかっこよくなる努力を放棄だなんてオレは許せません。なにもしてないのにイケメンとかオレは許せません。せっかく校則自体は緩いのに。

「そんなんじゃモテないよー?」

「構わん。お前と一緒にするな」

かっちーん。
あーあー、そういうこと言っちゃう?あーあー、インチョーはそんなことないってオレ信じてたのに。

「はいはい、会計はチャラいって言うんでしょー、親衛隊の子喰いまくってるって噂だもんね、もう聞きあきたんですけどー」

失礼だよね、喰いまくってなんかいないのに。てか、喰ったことだってないよ!純潔だよ!なのに風紀がオレ目の敵にして追いかけ回すから、ただのオシャレさんがチャラ男って認識になっちゃったんじゃん。

「インチョーのばーか。どーせインチョーだって喰いまくってんでしょ、真面目な顔してタチわるっ」

「拗ねるな」

ばしっと頭を叩かれた。全くもって容赦のない一発、すごい痛い。

「ちょっとインチョー、」
「聞け」

抗議しようとしたらもっかい叩かれたすごい痛い。じんじん痛む頭を堪えながらインチョーが話すのを待つ。けどすごい痛い。

「いつ俺がお前の生活態度を注意した」
「…ぅえ?」
「今までも今日も、お前の身なりを注意したことはあっても、態度まで言及したことはないぞ」

それってつまり。

腕をくんだインチョーが当たり前のように言うから、すごくびっくりして、びっくりしてびっくりしてつい涙が零れた。それにもびっくりした。なにこれ実はオレ傷付いたりしちゃってたの、急に泣くとかキモいじゃん。

「もし風紀委員がお前にそういう類のことを言っていたのなら、それは俺の指導不足だ、申し訳ない」
「…で、も、いっつも風紀オレ怒るじゃんー……!!イイコしてるのに、悪口いっぱい言うじゃんー…!」
「さっきも言ったが、イイコはしていない。だが」

そ、っと無骨な手がオレの頭に乗せられた。

「噂みたいな、ふしだらなことも、してないな」

「う、うぇー…」

不覚。一生の不覚。
天敵風紀に、しかもその長に慰められてしまった。

「だから身なりを正せと言ってるんだ、そんな不真面目な格好をするから良からぬ噂がたつんだろう」

ついでに説教された。
台無し!感動台無し!

「これでも心配してやってるんだ」

あれ持ち直した。

ぐずぐずと鼻をすする。

「でもインチョーみたいな格好はダサくてしたくない………」

「………」

睨まれました。だってダサいんだもん。黒髪とかオレどこの中学生よ。

「…俺はお前以外にダサいと言われたことはないぞ」
「なに、顔がいいって自慢してんの」
「お前はそのままでいいと言ってるんだ」
「…なにそれくっさ。インチョーくっさ」

つい鼻をつまんでやると、また叩かれた。インチョー言葉数少ないからって暴力に訴えるのは良くないよー…。

「お前は地毛でも十分目立つから直してこい。せめて金はやめろ。ピアスも減らせ。ネクタイつけろ」
「お母さんうるさい」
「よっぽど殴られたいようだな」

冗談通じないよ、かったいの。

「簡単に言うけどねえ、今時の男の子にオシャレやめろってよっぽどよ?自己主張よ?インチョーがわからなすぎー」

風紀以外にはウケいいもん、金髪もピアスも。かっこいーねーって毎日誰かに言われるし。えへん。

「……言っておくが。俺はお前みたいな『オシャレさん』に気を使ってやってるだけだ」
「は?」

ため息をついたインチョーが眼鏡を外して、ぐしゃっと整えていた髪を乱した。

「なーにして、…ん、の…、」

「で?」

乱れた前髪の下から切れ長の目が光って、どきっと肩が跳ねる。

「誰が、わからないって…?」

や、ばい。
やばい、やばい。
眼鏡がないだけで。髪が乱れただけで。

真面目なインチョーが、なんで、こんな、

「聞いてるのか…?」
「っえろーー!!!」

なにこれ!
なにこの豹変っぷり!?
やめてよそんなの聞いてないよ!?

「ってなんでネクタイを緩めるー!?」
「お前の言うオシャレをしてやってるんだろう」

適度に焼けた肌に、ちらりと鎖骨が浮いて。

あ、う、う、う、

「脱ぐなー!!!」
「は、そんな見かけをして意外と初だな」

う、う、うるせーっ…だから言ったじゃん言ったじゃんオレ純潔だって言ったじゃん…!

「か、勘弁、勘弁してよぉ〜っ…」
「…そういう反応をされると、ますます苛めたくなる」
「っぎゃーーー!!?」
「……色気のない声をだすな」
「え、え、えろい声で言うなぁー…っ…」

そんな野獣じみた目をして近寄られたら、もう、う、うう、

「ちょっとインチョー!!!そういうギャップはずるいー!」

男の子はみんな狼だってほんとだった!こんな形で知りたくなかった!

「ギャップとかお前に言われたくない」
「は!?」
「いいからチャラ男がそんな顔して泣くな」

そんな顔とか言われても見えないし!!熱いことしかわかんねーよ、もう、えろいんじゃちくしょー!

「チャラ男じゃなくてオシャレさんと呼んで!」
「オシャレさん…?」
「今鼻で笑った!?」

もーむかつくー!!!
こんなやつにときめいたとかむかつくー!!

「俺がなんで真面目な格好かわかったろう」
「うう…こんなやつに…インチョーなんかに…っ…」
「頑張ってるお前みたいなやつが可哀想だしな」

わかったインチョータチ悪いんじゃなくて性格悪いんだ。

「そんな気使われた方が傷付くわー!!」
「拗ねるな」

また叩くしー!!!もー!!

「…お前は俺の話を聞いてるのか」
「聞いてます聞いてますとも。気使わせちゃってすみませんねイケメンさん」
「そこじゃない。お前はそのままでいいと言っただろう。余計な装飾をする必要はない」
「でもオシャレ…」
「イケメンの俺が言ってるんだ、信じろ」

自分でイケメン言うな。けど実際イケメンだからむかつく。

「うー…………地毛に戻す…」
「よし」
「ピアスも4つに減らす…」
「…あ?」
「2つ…」
「…まあいい」

なにインチョーめっちゃこわい…。素顔だとさっきの10倍くらいこわい…。

「あ、ネクタイ買うお金をください…」

言うまでもなく叩かれた。



インチョーによるオレの更正が行われ。

金だったオレの髪は地毛(まあ言うても茶色だけど)になり、開けるボタンは2つだけになった。ネクタイもそれに合わせて緩くだけどついてるし。5個輝いてたはずのピアスは左右1個ずつになったし。
偉い。すごく偉い。


そしてチャラ男から適度なオシャレさんに変化をとげた今も、オレは風紀室にいた。

けどもう呼び出しなんかじゃない。


「シャーペン全部なくなってた…ボールペン昨日なくなっちゃってたからオレさっきの授業油性ペンでノートとった……」

相談である。

「泣くな」
「泣くよ!泣かせてよ!インチョーの言う通りにしたら身の回りのものよくなくなるようになっちゃったじゃん!責任とれよー!!」
「…そう言われてもな…」
「嫌われたんだよダサくなっちゃったから……インチョーリコールされろまじされろ」

インチョーなんて嫌いだ。嫌味なのに「風紀にそんな制度はない」って冷静に返されたし知ってるよちくしょー!

「…ネタで言ってるのか?嫌われるどころか好かれたんだろう」
「ノートをペンでとる苦行強いられてるのにそんなポジティブになれない」
「だからお前はバカなんだ」
「頭は良いですけど」
「聞け」

うん、聞く、聞くから叩くのやめてよ……。インチョーオレが痛みを感じない子だと思ってるの?今まさに精神的痛みに泣いてたところなのに追いうちをかけるの…?

「正直今までのお前は近寄りがたかった」

…追いうちにも程があるよ!!

「金髪に派手なピアス、制服はもはやだっるだる、しかも毎日風紀に追いかけられる問題児に、顔が良いといったって自分から近付きたくはないだろう」

あれ、オレのオシャレ全否定?え、インチョーそんな風に思ってたの?ねえ?

「それが適度なものになって近付きやすくなったんだろうな」
「知らぬが仏ー!!」
「それに」

と、インチョーがオレの顎を持ってふむ、と頷いた。

「チャラチャラしていた時はどちらかというとタチっぽかったが、今は雰囲気完璧ネコだしな」
「いや待て待て」

えっ?なんてこと言っちゃってんの?かっこいいイケメンなオレがそんなはずないでしょ?

「お前初だし」
「バカにすんなー!男の子はみんな狼なんだからね!」
「その狼の群れにお前は狙われているわけだが」
「うっ」

狙われてない。断じて狙われてない。最近ボディータッチが多いのとか気のせいだから。狙われるのと違うから。

「…まあ、何かあったら風紀にこい。守ってやる」
「何かあってからじゃ遅いよ…頼り甲斐なさすぎだよ…」
「お前は我儘ばかりだな」
「相談してるのに責めるとか鬼畜すぎるよ…」

項垂れたオレにインチョーが小さく笑った。

「責任ならいつでもとってやるぞ?」
「え、シャーペン代出してくれるの?」
「………」
「照れ隠しじゃん、叩かないでよ…」




END


prev | next


back main top
 



×
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -