後日、稲垣からの呼び出しに、律儀に九条は足を運んでいた。言葉は冷たいものの、こうして垣間見える心配りが、彼の人気を支えている。
稲垣は最初こそ真っ赤になって緊張を全身で表していたが、今は九条に向かってにこりと笑ってみせた。
「ずっと見てきた結論を言うとね、俺、あなたを愛せると思うし、あなたも俺を愛せると思う。お似合いのカップルになると思うよ」
堂々と言い切られた台詞に、ふうん、と一応九条は頷いて。
「僕はそう思いませんけど」
にべもなく否定した。
「いや、俺の勘はあたるんだ」
「サッカー部主将だからですか」
鍛えられてるんですか、と九条が言うとぱあっと稲垣の顔が輝く。
「知ってたの!?やっぱり俺たちお似合いだって!」
「どういうことでしょう?」
「俺と付き合えばわかると思う!」
「…会話できてます?」
「俺と付き合えば毎日会話できるよ!」
「意味のない会話は嫌い」
「俺と付き合えば愛の籠った会話が出来るけど」
「したくありません」
「俺と付き合えばしたいと思うようになるって!」
「………思わなくていい」
「そう、愛は思うんじゃなく感じるものだからね!」
「………………感じたくない」
「俺と付き合えば感じたくなる」
「…………………あの、会話の着地点が見えないんですが」
「俺と付き合えばみえるって、結婚というゴールが!!」
ぐいぐいと迫る稲垣に、流石の九条も戸惑いを隠せない。一歩下がる間に稲垣は5歩近く間を詰めていて、がしっと九条の手を握りしめた。
「恋人になろ?」
「ごめんなさい無理」
それでも九条は流されなかった。
end
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