「…あの、副会長さま、…後ろのかたはお知り合いですか…?」
小柄な生徒の問いに3度瞬きをした九条は、ああ、と頷いた。
「最近ね」
「…はあ……」
聞きたかったことは、敬愛する九条の後方でギリギリとこちらを睨む黒髪の生徒が誰かであるかなのだけれど、簡単に返された返事にそれ以上つっこむことが出来なかった。
副会長が美しいから、ついに悪質な虫でもついたのだろうか、と顔を青ざめさせる生徒に、九条はにこりと笑顔を向けた。
「大丈夫ですよ。視界にちらちら入られるのは鬱陶しいですが、それ以上は何もしてきませんので」
「で、ですが副会長さま…」
「と、いうか。正直直接相手をすることの方が面倒くさそうなので、彼はいないものと思ってください」
「…はあ………」
そうは言っても、隠れてるつもりなのかロッカーの陰からこちらを睨む男は気持ち悪い。もし、この男が副会長さまに何かしでかしでもしたら…。
僕が、副会長をお守りするんだ!
決意新たに男を睨み返すと、その場を立ち去った副会長を追いかけるようにふらふらと男がやってくる。
その顔を認めると、小柄な生徒の大きな目が見開かれた。
「ゆ、佑真さま!?」
なんと副会長さまを見つめていたのは、サッカー部主将としても名高い稲垣佑真だった。九条とは違う男らしい整った顔に、敵視していたことも忘れて、生徒の頬に朱が走る。
「あの、佑真さまはなにを…?」
「あの人、俺のこといまなんか言ってた?」
疑問を無視する形で稲垣は切り込むが、美形は大抵なにをしても許される学園である、聞かれた生徒も、当然のようにあっさりと答えた。
「ああ、最近知り合ったとか……」
九条の辛辣な言葉は彼の優しさか、稲垣には伝えなかった。
その優しさのおかげで、佑真はただその相好を崩す。
「そう」
「あの、佑真さまは副会長さまを…」
出過ぎた質問かもしれないが、気にならないわけがない。
サッカー部というイメージはあまりにも爽やかで健全で、彼にまつわる浮いた話は一切なかったのだ。
きらきらと輝く瞳に、佑真は同じくらい輝く笑顔でこたえた。
「あの人は俺が守るよ」
物は言いよう。
end
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