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花を一輪買った。今日という日が特別な日というわけではなく、たまたま目に入った花屋で、なんとなく目についた花を一輪買っただけだ。それ以上の意味はないし、ただの気まぐれにすぎない。でも、俺の心はなんとなく弾んでいた。ピンクのスイートピー。それが彼女に1番似合うと思った。可憐で、ほっそりと佇むその姿は彼女そのものだ。
花なんて買ったことのない俺。きっと驚いた顔をされるだろう。自分でもちょっと照れ臭い。それでも、喜んでくれるだろうか。不安と期待で膨らむ胸を押えて彼女の家へと急いだ。

案の定、花を受け取った彼女は驚いたような顔をしたので、たまたま目に入った花屋でなんとなく買ったことを説明した。すると彼女は納得したように頷いて、それを見つめたまま沈黙する。
彼女の手に握られた一輪の花。たおやかに咲いた桃色の花弁から、甘い香りが漂うような気がした。柔らかい、春の匂い。彼女が桃色の花弁を愛おしげに、慈しむようにそっと指で撫でる。伏せがちだった目をふっとあげ、自分のほうを見上げる。そして、「うれしい」と顔を綻ばせて笑った。淡い光のような、春に咲く花のような、そんな微笑み。
込み上げる喜びに、俺も笑う。笑って、桜色に色づいた頬にそっと唇を寄せた。


春を、告げる。



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