チスターチェアへようこそ!6
2013/06/22 22:24

頭を冷やす大学生君

「えーと、とりあえずこのへんに生えてるものに水をやればいいんですね」

ホースを引きずりながら、文鴦くんは背の高いトマトの中でしゃがみこんで埋もれている彼女に問いを投げかけた。

「……ん」

畑に似合わないノースリーブワンピース姿の彼女は彼を振り向き、こくりと小さく頷く。

つばの広い麦わら帽子をかぶっているせいで表情は見えないが、帽子についた白と黒の水玉リボンが返事をかえすように上下に揺れていた。

今日は日曜日、カフェ「チスターチェア」はお休みなのだが、文鴦くんはごはん目当てに顔を出しにやってきていた。

ちょうど今日は朝から町内会の集まりがあるため出かけようとしていた徐庶は、入れ違いのように訪れた文鴦くんに彼女のお守りも兼ねて「ええと…昼間には帰るから後は頼むよ」と結構アバウトなお願いを頼んでいったのだった。

「具体的に何を?」と問い返す暇もなく。

休日のカフェに残された文鴦くんはとりあえずお留守番の彼女に従い、畑の水やりを始めることにした。

とはいえ徐庶さん家所有の畑は無闇に広い。

野菜作り初心者の文鴦くんには、どこから手を付ければいいのかもさっぱりだった。

少なくとも最近は雑草と野菜の区別は付くようになったから、なんとかなるだろうが。

(ちなみに、一番初めに文鴦くんがやらかした暴挙は雑草と思いこんで彼女が植えたラベンダーを根元から引っこ抜いたことだった、「いい匂いがする草ですね」の一言で彼女が失神したのは言うまでもない)

彼女があっち、と指差すピーマンの茂る列にホースを向けて文鴦くんはホースのトリガーヘッドを引く。

「……あれ」

水が出ない。

カチカチとトリガーを引いてみたり、シャワーと霧を変えてみたり手元をいじってみても、全く変化はない。

(蛇口は捻ってあるはずだけど…何処かで絡まってるのか)

無反応なホースを覗いてうーむ、と暫し考え込んでいた文鴦くんは困り顔で振り返る。

「あの、子元さ……」

話しかけた瞬間、彼女はトマトの茂みにしゃがみ込んで大きな欠伸をしていた。

口元を手で隠しながら、ふあぁ…と目尻に眠たげな涙が浮かぶ。

無邪気な仕草に文鴦くんの心は緩み、思わず微笑がこぼれた。

(ゆうべ夜更かしでもしていたのかな)

彼女は普段ログハウス風店舗の二階にある徐庶宅に居候しているらしい。

昨日も夜遅くまで徐庶に甘えていたのだろうか。

(……こう、お風呂上がりの火照った身体で徐庶さんににゃんにゃんと)

ごくり、と文鴦くんは固唾を飲み込んだ。

(いや、もしかしたら逆に…ああ見えて店長さんが子元さんを寝かさなかったという可能性も…!)

どこをどう飛躍したのか、文鴦くんは徐庶と彼女の爛れた関係にボワッと顔を赤らめる。

(怯える子元さんを抱き上げベッドに押し倒し、推定Dカップに顔を埋め…あまつさえ恐怖で涙を浮かべる子元さんに「怖かったら泣き叫んで助けを求めてごらん…出来るなら…ね」と不埒な笑顔を向け純白のレースの下で震える柔肌に以下規制)


「う…うわ…」

斜め上な妄想で勝手に呆然としている文鴦くんは、思わず彼女から顔を背けて乙女よろしく片手で頬を押さえつけた。


(自分で妄想したのが悪いんだけど…駄目だ子元さんを直視できない…!)


「……?」

明らかに様子のおかしい文鴦くんに彼女が気付いたらしい。

首を傾げ、トマトを収穫する手を止めてゆっくり立ち上がる。

瞬間、彼女の足元でゴボ、っと不自然な流水音が、柔らかい感触と共に鈍く響き渡った。

ん?と大きな目をぱちぱちさせて彼女が足元に視線を落とす。

水色のホースが蛇のような動きで彼女の爪先スレスレをうねっていき……

「うわ!?」

「…!!!」

悲鳴と水飛沫の音に驚き振り返れば、ホースの口から勢いよく吹き出したシャワーが文鴦くんの無防備な顔面に容赦ない不意打ちを食らわせていた。

どうやらトリガーを引いたままにしていたところに、彼女が無意識に踏んでいたホースから足を離した結果、突然のジェット水鉄砲と相成ったらしい。

即座にトリガーを戻したが時は既に遅く。

上半身に水を被った文鴦くんはずぶ濡れで前髪やTシャツからだらだらと色気に欠ける雫をこぼしていた。

呆然とするしかない文鴦くんに彼女が慌てて走り寄ってくる。

「…あ…あの……」

彼女は手にしたハンカチで一生懸命身長差30pくらいの文鴦くんの頬や額を拭いてくれた。

「子元さん…」

雨の中の捨て犬みたいな目でしょんぼりと見つめる文鴦くんに、彼女は心配そうに眉を顰める。

邪気のない清楚MAXの上目遣いに脳裏の光景を思い起こすと、何とも居たたまれない気分になってくる。

(こんな優しい人に…私はなんという不埒な妄想を…)

堪らず、文鴦くんはその場で思いっきり頭を下げた。

弾けた水飛沫が彼女の顔に飛んで「にゃっ!」と小さいダメージボイスが漏れる。

しかし、そんな微々たる被害に気づく由もなく、文鴦くんは彼女に詰め寄ってまくし立てたのだった。

「す…すいません!!自分汚れてました…!!」

「…?」

「心洗われた気分です…もうあのような愚行は致しません…!!」

「……??」


文「梨汁ブシャー!でお仕置きして下さっても!!」
師(な…なんのこと)

ブンブンはなんて言うかただのお馬鹿さん



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