チスターチェアへようこそ!3.5
2013/06/08 18:17



よく食べる方の常連さん・余談


「はい、お待たせ。ドリアはもう少し掛かるけど、ごめん」

テーブルに並べられた、熱々のお昼ごはん。

ブルーベリーとバニラの匂いに、微動だにしない彫像のような姿勢で本を読んでいた関興さんもつられて顔を上げた。

銀屏さんに至っては、両手を合わせてほくほくと顔を綻ばせている。

「うわぁ美味しそう!店長さん男として婚期逃しても、これを武器にお嫁に行けるね」

「ああ…ありがとう、その言葉を心の糧に頑張るよ」

生傷に塩を塗った上に爪を立ててほじくり返すような悪気のない賞賛をしてくれた常連さんに、徐庶はどことなく精気の失せた愛想笑いを返した。

「……いただきます」

そんな店長の悲哀を知る由もなく、関興さんはマナーブックを具現化したような完璧な動作のナイフとフォークでフレンチトーストを味わっている。

感情が露わになることはないが、ほんのり嬉しそうに目元が緩んでいるあたりは、やはりバニラ風味のおかげなのだろう。

「ねえ、店長さん、ごはんあるかな」

不意に銀屏がカウンターに戻った徐庶に尋ねた。

「ええと…多少はあるけど」

「これはごはんが進みそうだよ!おかわりくださぁい」

「え…食べられる?ドリアも結構量あるけど」

「いけるいける!」

自信満々な銀屏さんにごはんをとりあえずサービス価格で提供して、15分後。



「……ごちそうさまでした」

皿の右端にナイフとフォークを置いて、紙ナプキンで口元を拭って、関興さんは全く無駄のないランチタイムを一言も発さず済ませていた。

向かい側では、銀屏さんが綺麗に平らげた皿を元気よく天に掲げて声を上げる。

「店長さん、ごはんおかわり!」

「ごめん…もう炊飯器からっぽ」

「…え」

威勢のいい注文には、申し訳なさそうな答えが返ってきた。

「私そんな食べてましたぁ!?」

「ああ…軽く6杯は食べてるね」

嘘ぉ、と銀屏さんは何処に6杯分のごはんと二人分のランチが入っているのか首を傾げたくなるスマートなお腹をさする。

「と言うか、ドリアをおかずに白米を食べる人を見たのは生まれて初めてだよ…どっちも米じゃないか」

「だっておいしかったんだもん」

「うん…そう言ってもらえるのは、本当にありがたいけども」

店中のお米を食い尽くされるのは、さすがに勘弁だ。

テーブルの上(主に銀屏さんが座っている東側)には無造作に4枚も5枚も皿が積まれている。

関興さんの前にはちょん、とブルーベリーソースの少し残った白い皿があるだけだから、その落差が余計にひどい。

銀屏さんはストローを引っこ抜くとグラスに直接口を付けてアイスコーヒーを一気に飲み干した。

そのまま、勢いで可愛い花柄トートバッグを肩に掛け席を立つ。

関興さんは、妹の素振りも気にせずソーサーごと礼儀正しく持ち上げて静かにハーブティーを味わっていた。

「なんかごめんなさい店長さん、悪いことしちゃって」

「え、いや…」

「迷惑料って事で多めに払いますっ、お釣りはいらないんで…」

「えええ、いいよそんな…サービスしますよ」

しゅんと眉根を下げた銀屏さんは徐庶の制止に首を横に振って見せ、バッグに手を突っ込んだ。

「そんなの悪いです、申し訳ないです!とにかく払わせ…て」

「……銀屏さん?」

突っ込んだ手がバッグをまさぐったまま中々出てこない。

ごそごそと中を探るほどに銀屏さんの顔から血の気が引いていった。

「あ、あれ……お財布が…」

「ああ、また今度でも…」

どうやら銀屏さんはお財布を忘れてしまったらしい。

渡りに船、とばかりに徐庶はひらひら手を振る。

しかし、まごつく銀屏さんを押し退けてカウンターまでやってきた関興さんが、すっと静かに手を差し出した。

諭吉さんのドヤ顔が薬指の下辺りから垣間見えている。


「妹が…お騒がせしました、すみませんが…これで一緒に」


厳しく有無を言わさぬ横顔、しかし、妹に一瞬だけ向けた目線の何処か優しげな雰囲気に銀屏さんははっと顔を赤らめた。

「お姉ちゃん…ありがと…」

(関興さん…我が道を行く人に見えて…妹思いなんだ…)

意外な一面に徐庶もほっと胸を撫で下ろした、直後。


「後でしっかり回収する……利息は10分1割、略してトイチ」


「え、といち…って何…」

「きっちり耳を揃えて…!無いなら身体で払わせる…!活きのいい腎臓で…!」

「すみませんお願いしますお姉さん今回はツケにさせて本当に!!!」


…………
結局翌日払いに来てもらいました。



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