相互御礼を書くつもりが脱線した没稿(下
2012/10/13 17:06
「‥はぁ。」
鍾会が司馬昭にあしらわれていた頃、図書室を出てすぐの廊下では司馬師もまたやる気なく首を傾げていた。
尻下がりの反駁。
休みの間に読もうと借りてきた長編小説のお堅い文字が何となく彼女の凝り固まった感情にだぶって見える。
そんな頑なな心を何とか解そうと、向かい合っている姜維は今一度真剣な顔で告げた。
「司馬師殿、私の彼女になって欲しい。貴方を愛している」
素直で一途な言葉、オーソドックスゆえに一番乙女心に響きそうなものだが。
まっすぐな視線に司馬師は眠たげな、心ここにあらず、そんな感じの目を向ける。
「愛‥愛ってなんだ?ためらわないことか?」
「いや、えーと‥なぜそこで宇宙刑事‥」
表情が乏しいから、冗談か本気かいまいち読めない彼女。
通称"空気読めないけどイケメンのきょん君"はその曖昧さを見事に持て余していた。
見るからに彼女の興味は姜維以外に行っている。
と言いつつも普段のようにばっさりシカトされるわけでもないから、判断に困る。
そんな姜維の悩みも後目に、とうの司馬師は小説のハードカバー装丁についたヘコミ傷を気にしながら、何の気なしに続ける。
「マイナーなアルバムナンバーだが
"♪こんなにも愛しているのにdarling ひとつに溶け合えないもどかしさ"
とか、
"♪抱き締めるだけでは伝えきれないから 愛しさを捧ぐendless song"
とか、モトチカも歌っているし、基本的に愛とは対象と一緒にいたいとか抱き締めたいとか思う感情で、互いに触れ合う事を幸せに感じるような対象を恋人と言うと認識しているが」
‥‥あれ。
姜維が瞠目する。
彼が思ってる以上に司馬師は食いついていたようだ。
冷めた伏し目で思わず焦るような歌詞をさらっと乗せる素肌の唇から視線が離せない。
「姜維は私にそういう行為をしたいと思っているわけか」
ちらりと瞼が上がる。
ここまできて司馬師は漸く姜維の顔を見た。
その強い視線に今度は彼が頬を熱くして目を逸らす。
どうやっても噛み合わない予測と反応、本当に調子が狂う。
「思っているから告白したんだが‥貴方にはこれ以上の直球ど真ん中のストレート発言が必要なのか?ああ、勿論‥何度でも言えるけども」
照れくささに何処ぞの友人みたく前髪をいじったりしながら姜維は困ったように笑った。
あの司馬師が「私のこと抱いてくれるの?(驚異的姜維的解釈)」なんて言ったのだから、もう間違いない。
空気読めないの名に恥じない詰めの甘い確信を彼は胸に握りしめる。
「それは不要だが」
「えっ」
「そもそも私はお前に触れたいとか一緒にいたいとかそういう感情を一切抱いていない。すまないが恋人にはなれない。恋人になりたいなら私にそう思わせる存在になるためいっぺんその人生を強制終了して生まれ変わる必要がある」
緩慢に癖付いた前髪を耳に掛けながら、司馬師はちょっと冷酷さすら垣間見える言葉のチョイスをもって姜維の確信を見事に粉砕した。
しかも伏し目がちに戻った状態で。
「(遠回しに○ねと言われた気が‥)まさか、既に心に決めた人がいると‥!?」
今にも虚脱しそうな精神を何とか踏みとどまって、姜維がはっと問い返した。
何で自分からトドメを刺されに行くのか傍目には不可解極まりないが、司馬師はそれを知ってか知らずかひどくぼやけた語調で彼に答えた。
「‥一緒にいたいと思う人はいる。恋人とは言えないが、私は今のままでも幸せだからそれ以上を望まない」
居るような、居ないような。
司馬師の答えは一番反応に困る曖昧さを含んだものだった。
しかし、空気読めないでお馴染みの姜維でも、その瞬間口を噤む。
読まなくても肌で分かるような明らかな苦渋がその大人しい表情、震える睫に滲んでいた。
「‥話は終わりか?私はもう帰る」
小説を抱え直して、司馬師は踵を返す。
彼女が残していった不思議な余韻からはっと目覚め、姜維は華奢な背中にしつこいくらいに呼びかけた。
「そ‥それでも諦めない、何度でも告白する!何度でもだ!」
このへんで脱線している事に気付いて没。
モトチカは熱狂的信者を持つV系歌手なんだと思う‥うん
書き直すからもうちょい待って下さい、某様すみません‥(´・ω・`)
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