相互御礼を書くつもりが脱線した没稿(上
2012/10/13 17:05


勿体ないからアップ。
司馬姉妹が百合っぽい学園ネタ。


「‥‥はぁ?」

日差しもきつい正午の校舎裏。
茂る青葉の隙間からじりじり肌を焼く気温34度にうだりながら、司馬昭は投げやりに問い返した。

今日は学校の終業式。
夏休み序盤特有の爽やかな開放感を味わえる瞬間だというのに。
友達から「話したい人が居るらしい」と伝言を伝えられ、面倒だったが言われた通りの場所に顔を出した。

その結果が、上機嫌をぶち壊しにした半ば尻上がりの苛ついた返事である。

「だから、付き合ってやっても良いと言っているんですよ」
「ん、ちょっと意味分かんない」

視線の先にいるのは特進クラスの鍾会。
相変わらず癖っ毛の前髪をいじりながら遠慮のない横目で司馬昭を眺めている。

実力はともかくのんびり普通科の彼女とは選択教科で週に数回見かけるくらいの仲だ。
しかし、通称"顔だけはイケメンのシキ君"は、司馬昭をわざわざ呼び出した上に顔を合わせるなり「あなたの一途なアピールには負けました」と素っ頓狂にも程がある一言をぶつけてきたのだ。

「優秀な私は気付いていましたよ。私のことが好きなんでしょう」

可愛げもなく頭を掻く司馬昭に、鍾会は優越感たっぷりに肩を竦める。

「恥じらう必要はありません、選ばれた人間である私に好意を抱くのは当然ですから。でもわざわざ私の方からそういう異性に声を掛けるなんて稀ですよ、感謝して下さい」

斜に構え、小動物に餌でもちらつかせるような上から目線。

何を言われても片手間でくしゃくしゃと無造作に動いていた手が止まった。

「‥‥きも」
「えっ」

静寂に低い声がぽつんと落ちる。

校舎の壁越しには生徒の喧噪が響いていたが、その瞬間そういうやかましさは何処か遠くの雑音と化した。
司馬昭はゆっくり、おもむろに口を開く。

「うわぁやだなに勘違いきもい!きもきもきも!真夏なのに余裕で鳥肌立ってきた!きも!」
「駄目押しのように六回もきもきも連呼するな失礼な!」

さっきの沈黙は何処へやら、司馬昭はドン引きを通り越した忌避っぷりで後ずさりながら鍾会を指差し一息に喚きだした。
あまりの剣幕に鍾会もムキになって反論する。

「だいたい、いつも私を見ていたじゃないか、あの視線は気があるという事だろう」
「見ようと意識したこともないけど‥自意識過剰すぎ、マジ引く、逆に俺が何処見てるかいつも見てたって事?うわぁきも、改めてきも‥」

うえー、と両手で寒がるように肩を抱き、司馬昭は目一杯にしかめた顔を背けた。
その視界にふと通りがかった友人を見つけると、思いっきり鍾会を指しながら大声で呼びかける。

「元姫ー元姫ー!見て見てここに変態がいるよー」
「あああやめろ!そんな目で私を見るな!」

二人に突然巻き込まれた元姫ちゃんは当たり前だが司馬昭の言葉を信じ込んで、関わり合いたくない‥とばかりに顔を顰めながら足早に去っていった。

ちなみにこの日以降の鍾会の女子からの評判は推して知るべしである。

「ちっ‥何なんだ、常々男を追い回しているような頭の軽い女のくせに、この私を拒絶するなど‥なにが不満なのだ、本当に女とは理解に苦しむ」

そういう物言いが不満だよ、と思わず口をついて出そうになったが飲み込んで。
舌打ちし、毒づいた鍾会に司馬昭は大きな溜息をついた。

「あのなー‥俺は別に、誰でも良いから彼氏欲しい訳じゃないの。わざとやってる演技!それくらい判れよ馬鹿」
「馬鹿‥この私に馬鹿‥っ!?」
「めんどくせえ‥」

言い捨てた一言を拾っていちいち激高する鍾会をじとりと見やる。
司馬昭は腰に片手を当て、くるくる指を回しながら続けた。

「モトチカの歌でもあるっしょ、
"♪お前にジェラシー抱かせたくて 街で嘯くフェイクラブ"
"♪本当はお前だけを愛してる 声に出来ないこの想い凄絶にcry for you"
そういうもんなの、好きな人の気を引いてヤキモチ妬いて欲しいだけ、それくらい判れ馬鹿。もっかい言ってやる馬ー鹿」

歯の浮くような歌詞を引き合いに出しながら、ぐっと顔を近付けて彼女は上目遣いで鍾会にきっぱり言いきった。

「だ‥騙された‥」

がくり、思わず崩れ落ちる鍾会を彼女は年の割に冷めた目で見下ろす。
更に彼の目の前にしゃがみ込み、追い打ちをかけるように続けた。

「騙してないから。真に受けて釣られる方が悪いだけー!女心の「い」の字も判ってないのはどっちだっての」

(女心の何処に「い」が‥「女心のイロハ」と言いたかったのか?くっ、こんな所で察しがよくても意味がない!あぁでもこんなところでもなおミスに気付ける冴えた洞察力ってさすが私‥)

悔しいんだか嬉しいんだか、一度くらいへこたれても鍾会フィルターは大分都合がいいらしい。

対して司馬昭はつまらなそうに口を尖らせ、のそのそと億劫そうに立ち上がって彼に背を向けた。

また無意識の癖で髪をくしゃくしゃいじり始める。

「妬かせたからってどうにかなる人でもないけど‥」

思わずぽつんと呟き、口にしてしまった弱音をかき消すようにあー!と息を吐く。
そのままひらひらと手を振って、司馬昭は歩き去った。

「はぁ、世の中みんな鍾会くらいちょろかったらなぁ。あーめんどくせ、じゃあね」




prev | next





comment


prev | next





comment form

Name

E-mail

URL

Massage

PASS



Master only?






「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -