「なあ。」
ふと声をかけられ後ろを向くとむすっとした顔をした兼定の姿があった。
機嫌が悪いのだろうか、それとも私がなにか気に障るようなことをしてしまったのか、
振り向き目が合った瞬間顔を逸らす兼定に「なに?」と聞くとそっぽを向いたまま黙っている。
「どうしたの?」
そう聞いても黙ったままで
「怒ってるの?」
そう聞いたら小さな声で「…違う」とつぶやくだけ、会話は続かない。
彼は何か言いたげな仕草をしているし察してほしいのだろうけど全くもって分からない。
「兼定?」
名前を呼んでも下を見たり上をみたり顔だけが忙しない。いったい何なのだろう。
「どうしたの?今日なんか変だよ?」
終いには頭をがしがし掻きながら「あー!!!」と叫ぶのだから益々わからないし驚くし本当になんなの。
「わ、私行くね…」
居たたまれなくなってしまってその場を去ろうとしたら
後ろを向いた瞬間、後ろから抱きしめられた。すごく、強い力で。
「なっ…か、兼定…」
「思ったとおりにはいかねえもんだな…」
「え?なに?」
平常を保とうと聞き返すも耳元で呟かれると何とも恥ずかしいもので…
ましてやいつもあまり私とそんなに会話を交わさない兼定にいきなり抱きしめられたのだから。
「こっち向け。」
「えっ?」
「いいから!こっち向け!」
耳元で囁かれ戸惑いを見せれば次は大きな声で驚き半分恐怖半分顔だけ振り向けば
ぎこちなく兼定の唇が私の唇に重なった。
「…な!?」
あまりの衝撃な出来事に驚くわ恥ずかしいわで言葉も出ない。しかも兼定本人はゆでだこのように顔を真っ赤にしている。
「なにしてくれてんの!?」
私が腕の中で暴れると逃がすものかと抱きすくめられる。本当になんなの。
「好きだ!!」
「は!?」
じたばたしている私を抑えながらいきなりの愛の告白、思わず女らしくもない声を上げてしまった。
「好きだって言ってんだよ!!」
もう一度兼定が大声で発した言葉が私の体の動きを止める。
「う、うそ…」
「今日は真実しか言ってはいけない日だ。」
4月1日はエイプリルフールで嘘をついていい日。それは知ってるけど、じゃあ2日は?
嘘をついちゃいけない日?なんか聞いたことがあるようなないような…。
「お前に伝えるきっかけが分からなくて、色々考えたんだよ…」
でも思ったようにかっこつかねえな…。と自嘲気味につぶやいた兼定がなんだか愛おしく感じてしまって。
「ありがとうね」
抱きしめられた状態のまま、兼定の腕にそっと触れると普段より暖かい体温を感じた。
「お取り込み中悪いが…」
後ろから歌仙の声が聞こえて私たちはあわてて向き直った。
「なななななんだよ2代目!!」
真っ赤になって叫ぶ兼定に歌仙はバツが悪そうな顔をして衝撃な一言を。
「4月2日は嘘をついてはいけない。所謂トゥルーエイプリルフールというものだが、」
「だからなんだよ!!」
「そんなものはこの世に存在しないぞ」
「…は?」
その後トゥルーエイプリルフールとはデマ情報
という真実を歌仙から聞いた兼定と私。
ショックのあまり憔悴しきった兼定をなにかと看病する私であった。