へっくち!!
「おや?なまえちゃん風邪でもひいたのかい?」
くしゃみをし鼻をすすりながら食器を拭くなまえに光忠は心配そうに尋ねた。
「大丈夫!きっと誰かがうわさしてるだけ…へっへへ…へっくしゅん!!」
「ははは、随分とたくさんうわさされてるみたいだね」
光忠は笑いながらなまえのエプロンを解き、ゆっくり休んでおいでと言って頭をくしゃくしゃと撫でながら微笑んだ。
「お言葉に甘えます…」
ずびずびと鼻をすすりながら自室へ戻る途中に、真向かいから何か考え事をしているようなしぐさをしている薬研が歩いてきた。何をそんなに真剣に考えているのだろうか、気になってしばらくその場で見ていると薬研がこちらに気づいたようだ。表情はころりと変わりにこやかに走ってくる。
「なまえちょうど良いところに!」
「どしたの?なんだか凄く考え事してたみたいだけ…ど…っくしゅん!」
薬研は私の様子を見てやっぱりそうか!と一人で納得したみたいだけど、なんなんだろう気になるなあ。
「いや、昨日お前弟たちのお世話してくれてただろ?」
「うん。いつも通り、日課だからね。五虎退ちゃんなんだか元気なさげだったけど…」
そう!それなんだよ!と薬研はポンと手を叩きずずいと近寄ってきた。
「な、なに?」
「五虎退が風邪引いちゃったんだよ」
ああ、それでちょっと元気なかったんだ、と私も納得したところで、なぜ目の前の彼は弟が風邪をひいているのに嬉しそうなのかが気になった。普通ならしょんぼりするはずだが。
「看病しなくていいの?」
「それなら一にいがしてるから大丈夫だ!」
ふむ。それは安心だ。一にいは兄弟たちのお世話に至っては特化してるから。
「それよりなまえ、さっきからくしゃみ凄くないか?」
目の前の薬研はキラキラしたまなざしで問いかけてくる。
「うん?まあ今朝方からくしゃみがとまらなくて、さっきも台所のお仕事光忠さんにまかせてきた。」
ガシ!!
言い終わると同時に薬研は私の肩を掴み、それは、風邪だな!!と嬉しそうに笑うと腕を引き自室へとずんずん私を連れて進んでいく。一体なんなのだ。
自室へ入るとそこには朝たたんでしまったはずの布団が敷いてあって、
枕元にはお粥らしき物と白湯がおいてある。
私がぽかーんとしていると背中を押され、ほらほら病人なんだからお布団に入って!と薬研が促した。
言われるがまま布団に入ると、薬研は私の枕元に座りお粥をふーふーと冷ましだす。
これはもしや…。
「はいよ!なまえ、あーん、して?」
「じ、自分で食べれるよ!」
ぶんぶんと首を横に振ると病気の時の醍醐味だろー?とわけのわからないことを言い出した。れんげに掬われたお粥はとても美味しそうで、風邪を引いていても食欲をそそる。た、食べたい。
「ほら、あーんしないと俺っちが食っちまうぞー。」
「わ!分かったから!あーんするから!」
いいこだなー!といいながらほのかに梅の香りがするお粥が口元に寄ってきた。
「ほら、あーん。」
「…あーん。」
ぱくりと薬研の手に持たれたれんげから私の口にお粥がするりと入ってきた。
絶妙な温度と味が口の中を幸せにした。
「おいしい〜」
「あったりまえだ!俺っちの手作りだからな!」
薬研料理できたんだー。と呟くと、もうやんねえぞ。と返されたので即謝った。
薬研特製のお粥を平らげ、白湯を飲んだ後、気になっていたことを聞いてみた。なんで私が風邪引いたのを嬉しそうにしていたか、だ。
「そりゃあお前、好きな女が弱ってるときは男が助けなきゃなんねえだろ?」
他のやつらになまえの看病させるまえにスタンバッてたんだよ!
そういいながら私のおでこに自分のおでこを合わせてきた
こりゃあ今夜は熱が上がるかもなあ…