「私は何事も平和でいたいの」


ぽつりと主さんはそうこぼした。
政府に提出する書類を書いてるわけでもなく、ただ近侍である僕と縁側に座って日光を浴びてお茶を飲んでいたら、一言をゆっくりと噛みしめるかのようで、だけどどこか重みのあるように言った。
その時の僕はそうだね。と返し、手の中の湯呑を啜って主さんを伺う。色素の薄い瞳は太陽の光で琥珀のような色に見えなくもない不思議な色の瞳は、僕と目がぱちりと合えばふにゃりと和らげられる。そんな主さんに倣い僕も笑顔が浮かべた。


「でもどうしたんですか?急にそんなこと」

「急にじゃないよ。最初から。歌仙と二人の頃から思っていたんだ。戦いはあまり好きじゃないって」


肩を竦めカラカラ笑う主さんを見て、彼女は嘘を言っていないと確信が出来るのだから、絆されたのだと苦笑いをする。彼女自身が嘘を嫌ってることも相まっているけれど、瞳が真摯にそう訴えてるから。僕はそんな彼女が好きだ。嘘偽りがなく、さっぱりとした性格故に冷静に周りを見極める姿が凛々しく美しいと思う。兼さんはそうかぁ?と顔を顰めるが、僕はそう思う。

そして最近になって思うことがある。

主さんはふとした時に哀しみの色を瞳に写すことがあるのだ。他の人に聞いたら気付いていないらしい。何故かその時僕は高揚にも似た感情が渦巻いたことに驚いた。独占欲?みたいなそんな感情が僕にもあるのだと思うと不思議と嫌ではないと思った。


「ねぇ主さん」

「なぁに?」

「その理由は、主さんがいつも写す哀しみの瞳の正体?」

「え?」

「ごめんね。僕も上手く言えないけど。主さんはさ、何を恐れてるの?」


湯呑を隣に置き、逃げないように腕を掴み真っ直ぐ見据える。すると気まずいのか、なかなか視線を合わせてくれなくなった。人には関わってほしくないところもあるようだけど、この人のことは知りたいと思う。何を抱え込み恐れているのかを。僕じゃ頼りないかもしれないけれど、安心出来るように支えてあげたいと思うのだから存外僕は人間味に溢れてると内心苦笑いだ。


「ほ、りかわ?どうしたの?薮から棒に」

「僕はね、主さんが困っていたり怖いことがあるのなら支えてあげたい。守ってあげたい。そう思うんだ。主さんが恐れているのだって、僕が消してあげたい。知ってる?僕の両手は主さんを守る為にあることを。」

「ちょっと待ってよ。私、別にそんなこと、」

「お願い。誤魔化さないで」


元々大きな瞳を更に大きく見開き、ぽかんと間の抜けた顔が可愛いく見えクスリと笑えば顔を熟れた林檎のように染め愛おしいと思った。するりと人差し指で頬を撫ぜればピクリと肩です反応を示したことが可愛いくてもう一度笑みがこぼれる。


「僕は見捨てないし離れてあげない。ね?今は少し気を抜こうよ」


精一杯に腕を広げれば、ポスンと音を立て胸へと身体を預け背中にきつく腕が回ったのを確認し、そっと背中に出来るだけ優しく這わせてあげれば、空いた手で頭を撫でれば甘えるかのように擦り寄る様はさながら猫のようだ。儚さを纏い危なげな雰囲気は何処へやら小さく蹲った主さんは幼子のようにポロポロと涙を零していた。


「ねぇ、僕は主さんを支えることしか出来ないし分かち合うことは出来ない。けどね?慰めることは出来るから。何事も溜め込まないで。その時は僕がまたこうして慰めてあげる」


嗚咽まじりに首を縦に振る背を労るように丁寧に、優しく撫でる。

どうかこの人が悲しまないように。優しい世界でありますようにと、思い静かに瞼を閉じた。


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