炭酸が好きだ。
舌をパチパチと舐めたあと喉ではじける甘い泡。体に悪そうな甘味料と着色料の味。やみつきになるのは彼が炭酸を好きだからかもしれない、彼のことが好きだからかもしれない、いや、炭酸がおいしいから、か。

「結人、ひとくち」

喉が刺激を求めるので、ドラマの邪魔にならないタイミングを見計らってつぶやいた。結人はいつもファンタグレープを飲みながら、月9ドラマを見る。結人なりの決まりがあるのかはよく知らないけど、絶対に買ってくる。わたしはテレビに集中できないたちなのでちっとも内容を知らないけれど、結人は夢中になってドラマを観ていた。目は画面に固定されたまま、手だけが動いてペットボトルを差し出す。受け取って飲んだファンタグレープは想像通りの甘さを口の中にへばり付けてしゅわ、と降りていった。あー甘い。

「ありがとう」

返すと、それはまた結人の口に運ばれていった。飲むのか飲まないのか持て余すように、唇で遊ばれるペットボトル。わたしの口につけたペットボトル。結人の唇だけを見ていたら無償にキスがしたくなって、炭酸が通った喉がごくりと鳴った。
そんなわたしの羞恥を見越したみたいにテレビの中で主人公と誰かがキスをした。あんなふうに雨にまみれてキスを交わしていたら本当に、溶けてしまいそう。とろとろ、かなあ、しゅわしゅわ、かな。

「ゆっと、もうひとくち」
「え」

わたしがゆっとと呼んだから、今度はテレビ画面から目を話してくれた。良いところなのになと文句をいいながら、優しいキスをくれる。まさか溶けやしないけれど幸せだった。
いつからだったろう、わたしが結人の唇はいつも炭酸の味がすると言ったことがきっかけで、ひとくちめが炭酸ジュースでふたくちめはついばむようなキス、そんな二人の決まりごとができた。普段結人としか呼ばないわたしが、キスのときだけゆっととかゆっくんとか、変わった呼び方をしたがるのは、恋人のまね事というか(二人はたぶん恋人なのだけれど)空気を甘くするコード。そんな雰囲気はあらためて思い返せば恥ずかしいけれど、嫌いじゃなかった。結人はぶっきらぼうに優しいけれど、ゆっとは丁寧で優しくて、未だにドキドキするのだ。

「ふふ」

照れ隠しに笑うと頭を撫でられた。もうちょっと待ってて、とまたドラマに戻る結人。手を差し出すと、また炭酸が置かれた。もうあんまりないファンタグレープ。飲み干すとしゅわりとペットボトルは空になって、テレビにはエンドロールが流れた。

「あっ、はなこひでえ!俺の!」
「ごめんごめん」

返してあげる、とキスをしたら、きっと結人はけらけらと笑って許してくれる。
そんなふたりの小さな、日常。

20110426 こゆずき
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -