02



「一体、何が始まるというのだ?」

再び成歩堂に問いかけると、彼は先程と同じように、

「いいからいいから」

と言って、窓の外に視線を向ける。
御剣もそれにならい、視線を移した。

その時。

ドーンッ!

という音と共に夜空に大輪の花が咲いた。

真っ赤な花火が夜空を彩ったのである。

間髪入れずに、次々と花火が打ち上げられる。
窓を開けているせいか、音が身体に響くようだった。
真宵と春美は「わぁ!」とはしゃぎながら、花火に見入っている。

ドーンッ!
ドーンッ!

大小様々な花火が、夏の夜を鮮やかに染めていく。

御剣も、しばし呆然と夜空に浮かぶ光の花を見ていた。
すると隣にいる成歩堂が、そっと呟いた。

「お前、きっと知らないだろうな、と思って」

見ると、「驚いた?」と悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべている。
その姿に、御剣は心が温かくなるのを感じた。
言葉少なではあったが、彼の想いはしっかりと伝わってきたからである。
そう、このサプライズは、単に御剣をビックリさせるためだけでなく、ここ数日仕事で缶詰状態だった自分を強制的に休ませるためでもあり、また、自分を放っておいたことへの小さな仕返しのためでもあった。

「ああ、ありがとう」

成歩堂の想いに応えるため、御剣は心からの感謝を、彼に伝える。
「どういたしまして」と微笑む成歩堂に、愛しさが募った。

赤、白、緑、黄、青、紫……様々な色彩が夜の闇の中に灯っては消えていく。

御剣は静かに、成歩堂の手に触れ、そっと指を絡めた。
成歩堂は、一瞬驚いたように御剣の顔をみたが、彼が変わらず花火を見続けているのがわかり、自分も再び夜空へと視線を移す。
そして、彼の指に応えるよう、握り返してくる。

温かな想いが、指を通じて、互いに巡っていくような感覚に襲われる。
それは、とても幸福で、優しい時間であった。

二人は手を繋いだまま、夜空を彩る花火を、ずっと見続けた。





(*)次(#)

<<戻






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -