盲目眼中関
の山
昼休み。教室。
「知ってるか碓井、石って磨けば宝石になるんだってよ」
「まじで!?後で校庭の石ころ拾いにいこうぜ!」
僕の右斜め後ろからなんだかものすごく馬鹿らしい会話が聞こえてくる。話しているのは碓井と早川。こいつらの馬鹿話はいつものことである。
全く、小学校や中学校の先生はこいつらに何を教えてきたのか。甚だ疑問だ。
これ以上話を聞きたくない。折角覚えた公式を忘れてしまいそうである。
はやく食べ終わるんだ僕、やればできるぞ僕――
一人フードファイトを繰り広げていると、椅子が物凄い勢いで斜め後ろに引っ張られた。勿論僕が座ったままである。
「え、ちょっと…!」
落としそうになった弁当をしっかりと抱え、体重を前にかける。しかし努力もむなしく椅子はスムーズに後方へ動いていく。
そして気づけば僕は馬鹿二人組の目の前に到着していた。
目をぱちくりしていると、碓井が椅子から手を離して笑った。
碓井、お前か!
「な、畑中!拾いにいこう!」
「嫌です」
即答すると碓井は悲愴な面持ちで僕を見る。早川は目を伏せて悲しそうにしている。
「見て。畑中くんが王子を……」
「早川様が……」
「畑中くん最低」
ひそひそと話す女子の声が聞こえてくる。どうやら早川は女子から王子だの何だのと呼ばれているらしい。
早川ファンの女子から非難の視線を集めた僕は押し黙った。視線で人を殺せるというのはあながち間違いでもないだろう。
それにしても。
ああうざい。なんなんだこいつらは。
「というわけで畑中博士、放課後はグラウンドに集合な!」
「博士?ていうかなんで僕まで」
「石博士を連れていこうって早川が言うんだ。すげえよ博士」
誰が石博士だ!
早川を睨みつけると奴は微笑む。早川ファンの女子が数人倒れた。
「だって畑中、石博士って感じじゃん。家の庭発掘してそう」
「うちマンションなんですけど」
「ベランダは土でいっぱい」
そんなマンションがあるか!だいたい発掘なんかできないっつうの。
「ていうかこの辺の石は原石じゃないから磨いてもダメですって」
「ざっくざくの億万長者の夢が消えた!」
「うわあ悲惨」
「いや早川、まだいける!畑中博士、じゃあ裏山はどうですか?」
「博士、土手の方がいいと思います」
ぴんと手を挙げた碓井がものすごくうざい。それに早川まで小さく挙手している。
なんなんだ、本当になんなんだお前ら。
「頭の中にお花畑でもあるんですか?」
「頭にお花畑があるわけないだろ。博士ってもしかして、アホ?」
お前に言われたくないわ!
碓井を罵倒しそうな口を一生懸命閉じた。
ここでキレてはいけない。
平静を保つんだ、やればできる……
ふと顔を横に向けると、早川は半分キレた俺を見ていた。爽やかな笑顔である。
「……」
なんだかどっと疲れた。図書館に行って勉強したい。
「あ!畑中どこいくんだよ」
「図書館です」
「いや、でももう」
後の言葉は聞き流した。椅子を元に戻し、ドアに向かって歩行を開始する。
もうついていけない。だいたい何故あいつらと同じクラスなんだ。
「畑中!」
ドスのきいた声が聞こえた。また碓井が呼んでいるのだろうか。
一度無視すると今度は更にドスのきいた声が聞こえた。
「なんです……」
振り返ろうとして、途中で止まった。
「お前、俺の授業サボる気か?あぁ?」
古典の先生である。
気づけば昼休みは終わり授業が始まっていた。
盲目眼中関の山
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sneeze様提出
「頭の中がお花畑なんですか?」
2010.04.27
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