おまけ








*おまけ*



「あれ?笠松、お前なんか甘い匂いしないか?」

部活が始まる前、笠松の隣で着替えていた森山がすんと鼻を鳴らして笠松に近付く。それを笠松はちけぇよと眉を寄せて軽くあしらう。

「気のせいだろ」

「そうか?あぁでもお前は黄瀬みたいに香水つけたりしないもんな」

なるほど、気のせいかと勝手に納得した森山に気付かれぬように笠松は右腕を顔に近付けてすんっと小さく鼻を鳴らした。
確かに蜂蜜のように甘い匂いが微かに鼻腔を擽った。

(黄瀬の残り香か…。悪くはねぇな)

ふっと口許を緩めた笠松の耳に、今度は小堀の声が入ってくる。

「香水といえば…黄瀬、最近香水変えたのか?」

「あ、それ俺も思った。前は何か甘い感じだったけど最近のは違うよな。ちょっと高そうで爽やかな感じの…うーんと、あれだ!…バラだ!ローズ!」

「あ…っ、それは。変えたんス!気分転換に!…もしかして俺には似合わないっスか?」

へにょりと眉を下げて、森山と小堀に答えた黄瀬はちらりと笠松の方を見る。
それはもしかしなくとも、自分の残り香じゃないだろうか。

「俺は別に良いと思うよ。黄瀬に似合ってるし」

「あぁ、ムカつくことにな。それで女子にモテモテか!俺は許さないぞ!一人だけ!俺にも何か良い香水教えろ!」

「えぇー!?俺はそんなつもり…」

「ごめんな、黄瀬。森山もすぐ諦めるだろうから、それまで森山に付き合ってあげて」

「こぼぃさん!何だかよくわかぁないけど、おぇも付き合うっす!」

「ありがと、早川」

困った様子の小堀を見て、何故か早川が参戦する。
そろそろ止めに、シバきに入るかと、ロッカーの扉を閉めた笠松に横から小声で声がかけられる。

「笠松先輩、黄瀬と結婚したんですね」

そして掛けられた台詞にぎょっとしてそちらを振り向けば、黒渕の眼鏡を掛けた中村が淡々とした表情で立っていた。

「おめでとうございます」

「お、おぉ。てか、お前…」

ヒトじゃなかったのか?と眼差しで問えば、一つ頷きが返される。

「黄瀬よりは遥かに劣りますけど同じような種族です。無駄に力を振り撒く黄瀬の力を無効化するのも大変でした」

「は…?」

「でも上手く纏まってくれて良かったです。これでもう無闇矢鱈に黄瀬が力を使うこともなくなりますね」

「…なんつーか、知らねぇ間に迷惑かけたみたいだな」

「いえ。俺が勝手にやったことです。それより…着替えには注意した方が良いですよ」

黄瀬のつけたシルシが、俺みたいにヒトじゃないもの達には丸見えです。
まぁ魔女は一途で嫉妬深い種族ですから、自分のものだと主張するのは当たり前のことなんですが。ちょっと目の毒です。

「あぁわりぃ、今後気を付けるわ」

「それじゃぁ、そろそろ黄瀬の視線が気になるので。…早川!行くぞ」

中村は早川を呼ぶと一緒に部室を出て行く。すかさず近付いてきた黄瀬が笠松に聞く。

「中村センパイと何話してたんスか?」

ジッと見つめてくる黄瀬に笠松は右手を伸ばすと、黄色い頭を軽くくしゃりと掻き混ぜてふっと双眸を細めた。

「お前のことだよ。おめでとうございますって祝福されたぞ」

「え?」

「ほら、詳しいことは後だ。行くぞ」

足を踏み出した笠松に慌てて黄瀬は付いていく。

「ちょっ、センパイ!それってどういうことっスか!?」

「だから、後でな。部活に遅れる」

バタンと部室の扉が閉まり、その声は遠ざかって行った。




end

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