03


ゾクゾクと背筋を這い上がる背徳感に身体が震える。兄貴の手の中で俺はもう限界に近かった。

初めて自分以外の手に触れられたそこは止めどなく涙を溢し、俺の理性を奪っていく。吐き出す息が熱くて、身体も熱い。わざと立てられる粘着質な音も気にならなくなって、俺は兄貴に身を預けていた。

「もうイキそうだな」

びくびくと震える中心に絡めた指先は濡れ、動かす速度が速められる。

「ぅ…あ…っン…ゃだ、兄ちゃ…」

「っ、それは反則だろ」

昇り詰める感覚に背がしなり、耳元で兄貴が何を呟いたのか聞く余裕はまったくなかった。ただ、どこか余裕なく息を詰めた兄貴に煽られ俺は兄貴の手の中で熱を解き放つ。

「イ、ク…ぅンッ…ぁっ…ぁあっ!」

どくんと一際強く脈打ち解き放たれた熱はとろとろと余韻を残しながら兄貴の手を汚す。

「はっ、気持ち良いか葉月?」

全てを絞り出すようにぐじゅぐじゅと動く手に身を震わせながら俺はシーツに脱力した。

「ぁ…ン…もち…良い…」

「これだけ出したんだ。当然だろ」

「う…んっ…」

忙しなく動く鼓動とは逆に頭がぼぅっとして瞼が閉じそうになる。心地好い微睡みに片足を突っ込みかけたところへ、俯せになっていた身体をいきなり強く引き起こされた。

「おい、寝るな」

「…っわ!?」

「ちっ、シーツが汚れたか。お前洗っとけよ」

「は…?あっ、〜〜っな、なにすんだよ馬鹿兄貴!」

ふわふわと夢見心地だった俺は急に現実に引き戻され、目の前の惨状にかぁっと顔を赤くする。
ぐしゃぐしゃになり汚れたシーツをなるべく見ないようにしながら、今だ俺を背後から拘束する兄貴を顔だけで振り向き睨み付けた。

「何じゃねぇだろ。俺の手で感じまくってたくせに。気持ち良かったんだろ…なぁ葉月」

「〜〜っ、るさい!」

事実なだけに否定も出来ず怒鳴り返す。

「まぁ良い。俺はこれから出掛けるから後始末は自分でしておけよ」

そう言って兄貴はあっさりと俺の拘束を解くと寝室から出て行く。
俺はこの前の酒飲み事件の比じゃないぐらい頭を抱えたくなった。

「やばい…なにやってんの俺…。てか、兄貴っ!」

以前と違いきちんと記憶はあるし、今になり襲い来た羞恥心にどこか穴があったら入りたい。
でもまずは汚れたシーツをどうにかしなきゃ今夜眠れそうになかった。








そんなことがあって夜。
シーツは何とかギリギリ乾いて、母さんに目撃されてジュースを溢したからと慌てて誤魔化し、元通りになったベッド。

後は寝るだけとなって俺は二段ベッドの前で立ち尽くした。幸いなことにあれから兄貴はまだ帰って来ていない。

「………」

そして俺のベッドは下の段だが、シーツも綺麗さっぱり洗ったが、そこで寝ると何だか危うい気がする。妙な気分になるというか何と言うか…意識せずとも昼間の行為が思い起こされてしまい色々とやばい。

「…っそれもこれも全部兄貴のせいだ」

ついうっかり耳元で囁かれた台詞や生々しい感触を思い出してしまい、ぞくりと身体が熱くなりかける。俺はそれにぶんぶんと首を横に振り、慌てて熱を振り払った。片手に抱き枕を抱き、二段ベッドに取り付けられている梯子を登る。

上の段は兄貴のベッドだが俺は構わずそこに寝転がった。

「兄貴なんか下のベッドで一人寂しく寝れば良いんだ。馬鹿」

そう呟きながら寂しいと思ったのは俺で、兄貴用に買ってきた抱き枕をぎゅうぎゅうと抱き締めて誤魔化す。

「だいたい普通弟に手ぇだすか?何をトチ狂って。信じらんねぇ。…何が慰めてやるだ。元はと言えば兄貴のせいだろ。兄貴の」

兄貴が居ないのを良いことにだらだらと愚痴を溢し、寝返りを打つ。

「常識を考えろ…って」

そういや前に一蹴されたんだった。
はぁ…、とため息を溢し兄貴の枕に顔を埋める。と同時に寝室のドアが開き、室内へと差し込んできた明かりに俺はぎくりと肩を震わせた。

この部屋に入ってくるのは俺か兄貴しかいねぇ。

近付いてきた足音にどきどきと煩く騒ぐ鼓動を宥めながら俺は咄嗟に寝た振りをする。

「…なに上で寝てんだお前」

掛けられた声に緊張が高まる。ぎしりと梯子に掛かった重みに兄貴が上に上がってきたのが分かった。

「寝てんのか」

「………」

顔を覗き込んできたのか頬を吐息が擽る。そのことにじわりと頬が熱くなりそうになるのを必死で耐え、俺は早く兄貴が離れてくれることを願った。

しかし…、
兄貴は普段と変わらず俺の腕の中から抱き枕を奪うとベッドの下へと無造作に放り投げ、俺の横へと身を横たえてきた。
伸びてきた腕が腰に回され、引き寄せられたかと思えば既に定位置となりつつある兄貴の腕の中に俺は収まっていた。抱き締められていた。

「…葉月」

ぐっと強く深く胸の中に抱き締められ、耳元で甘く低い声が俺の名前を紡ぐ。どこか熱っぽく鼓膜を震わせた声音にひくりと身体が震えた。

「――っ」

やばい、寝た振りがバレる。……そう危惧した俺だったが、その日兄貴はそれ以上何もしてこなかった。



(心臓が煩すぎて眠れねぇ!俺、いつもどうやって寝てたっけ!?)
(身体ガチガチ、寝た振りも下手くそだな。意識してんのか?良い傾向だ)



END.


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