02
そんな事があった翌日。
俺は初めて出来た彼女とクラスが異なり、放課後図書室で待ち合わせをして一緒に帰る約束をしていた。が、そこで俺を待っていたものは…。
嬉しそうではなく、何故か泣きそうになっている彼女で。俺は首を傾げた。
そんな俺を彼女はジッと見つめるなり、ぽろりと涙を溢す。
「えっ?なに、どうし…」
「葉月君がそんな人だったなんて。浮気者!もう顔も見たくない、さよならっ…」
「はぁ?」
そうしていきなり切り出された別れと、浮気者と言う全く身に覚えの無い単語に呆気にとられ俺は彼女を追いかけることも忘れ立ち尽くした。
「浮気者って何だよ」
それはな、と俺の独り言に返事が返る。驚いて背後を振り向けば、いつの間にかそこには友人が立っていた。
「脅かすなよお前」
「それより葉月。何でお前が振られたか教えてやろうか?」
「あぁ…おかしいよな。俺まだ何も嫌われるようなことしてねぇのに」
がしがしと髪を掻き、俺はまったく腑に落ちないという顔で友人を見る。
「本当に?なら、教えてやるけど…、普通自分の彼氏がキスマークなんか付けてきたら浮気だと思うだろ」
「キスマーク?誰が…?」
「お前だよお前。ここ、首のところ」
友人に指摘され首筋に指先で触れる。触れると同時に俺は昨夜のことを思い出し、かぁっと顔を熱くさせた。
「―っ、これはあに…!」
「朝から目立ってたぜ。あの葉月君が、って。あんまり詮索はしないけど気をつけろよ」
じゃ、とそれだけ言って友人は図書室から出て行く。俺は…熱くなった頬を押さえその場にしゃがみ込んだ。
「……っ昨夜のあれはそういう意味だったのか。くそっ、兄貴の馬鹿!弟の恋路を何だと思ってるんだ!」
気付かなかった俺も馬鹿だけど。
一日で彼女と別れるってどういうわけだ!
いや別に悲しくはないけど、無性に腹が立った。
怒りのままに真っ直ぐ家へと帰る。
兄貴の大学の時間割りなぞ何一つ覚えちゃいないが今なら家にいる気がした。なんとなくだが。
「ただいま!」
勢いのままに家へと入り玄関で靴を脱ぎ散らかす。鞄を持ったまま階段を上り、兄貴の部屋に突入した。
「兄貴っ!今日、兄貴のせいでな…って、あれ?いない」
玄関の鍵も部屋の鍵も開いていたのに兄貴の姿が見当たらない。俺はもしかしてと思い室内にあるもう一つのドアに手を掛けた。
同じように俺の部屋にもあるこのドアが寝室へと繋がる道だ。
「あに…っ!」
ガチャッと勢い良くドアを開け寝室に足を踏み入れた俺は入ってすぐ何かに躓いた。
「うるせぇ声が筒抜けだ」
べしゃっと運良くか悪くか二段ベッドの下の段に頭から顔を突っ込む。
顔だけで振り返り睨めば、入口脇の壁に兄貴が背を凭れ立っていた。
どうやら足を引っかけられたらしい。
「で、俺に何の用だ」
ゆったりとした動作で壁から背を離した兄貴が一歩一歩追い詰めるように近付いてくる。その動作にほんの少し恐怖を感じながら俺は無謀にも噛み付いた。
「何の用だって?俺はな、兄貴のせいで彼女と別れるはめになったんだぞ!」
「へぇ…別にいいじゃねぇか。元から好きだったわけじゃねぇんだろ」
ベッドの上に転がったまま睨み上げれば、鋭い眼差しに見下ろされる。
「うっ…そうだけど、そうじゃなくて!」
俯せだった身体を起こそうとシーツに肘を付き力を入れた俺の背後で兄貴は足を止めた。顎に指をあて、口端を吊り上げる。
「そうじゃない…、な。なるほど、お前の言い分は分かった」
とにかく身体を起こそうと兄貴から視線を外した次の瞬間背後から覆い被さるように抱き締められ、ぎしっと二人の重みにベッドが軋んだ。
背中に重なった温もりにどきりと鼓動が跳ねる。告白された時の比じゃなく心臓がばくばくと反応し、顔に熱が集まる。
「何してんだよ兄貴!離せっ」
そんな状態を知られたくなくて俺は暴れた。
「何?お前が望んだことだろ」
背後から耳へと寄せられた唇が囁く。頬を掠めた吐息にひくりと肩を揺らして俺は足掻いた。
「俺のせいで彼女に振られた。だから慰めろ。そう言うことだろ?」
「なっ…そこまで餓鬼じゃねぇし!確かに振られたけど…俺は別になんとも思ってない!」
上から体重をかけられて、片手で両手を纏めてシーツに押さえられる。
「可哀想な弟を優しい兄貴が慰めてやるって言ってんだ、お前は黙ってろ」
残りの手が前に回り学ランのボタンを外していく。
「うわっ、兄貴!?マジでやめろって!」
「へぇ…、やめて良いのか?」
ボタンを外した指先がベルトにかかり、耳元で低い声が誘惑するように流し込まれる。
「なぁ、葉月。今のもう一回言ってみろよ」
カチャと小さくベルトの外された音が耳に届き、布の上からするりと中心を撫でられる。
「っ、やめ…」
「これは何だ?ちゃんと反応してるじゃねぇか。期待してるのか?」
ククッと喉の奥で笑った兄貴にかぁっと身体が熱くなる。
「そんなわけ…なっ…や…!」
ジィ…とジッパーを下ろされ、忍び入ってきた指先にやんわりと中心を刺激され変な声が零れた。
「はぅっ…ぅ…ぅン…!」
「前から思ってたけど、お前快楽に弱いな。キスだけで気持ち良さそうにしてたし…」
指先を絡められ、窮屈になったズボンの中からずるりと快楽の中心を引き摺り出される。
にちゃにちゃと鮮明になった湿った音に羞恥心を煽られ、俺はシーツに顔を押し付けた。
「ぅ…ッン…ンン…!」
ダメだって分かってるのに気持ち良くて思考が停止する。自分の指じゃなく、兄貴の指先がそこに触れていると思うと…駄目だって思うのに、身体は火照り、貪欲に快楽を得ようとする。
「どうした?もう抵抗しねぇのか?…葉月」
「…ぅっ…ゃ…あに…きぃ」
ぐりぐりと先端を親指の腹で擦られ、知らず腰が揺れる。耳にかかった吐息に、背中に伝わるぬくもりに熱が高まっていく。
「こんなに零して、気持ち良いんだろ…?」
ぬちゃりとわざと生々しい音を立てて聞かせる兄貴に、俺の意思とは反対にとろりと先端から欲望が零れた。
「…っ…きもち良くなんか…っあ!…ぅっ…ぅン…」
なけなしの対抗心が顔を覗かせ口を開くも快楽の前に呆気なく砕け散ってしまった。
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