02
「えっと…遊園地とか水族館とか?」
デートなんてまだ女の子ともした事もない俺は、定番だろう場所をあげてみる。
「遊園地か…。それなら水族館にしようか。せっかく車で来たことだし、帰りに海を見て帰るってのはどうかな?」
助手席に恐る恐る座った俺は、運転席からかけられた声にドキドキしながら頷いた。
「それでお願いします」
車内に仄かな煙草の匂いがする。鼻につく程でも無いその微かな匂いは、なんだか三上さんに合っている様な気がした。
「じゃぁ、行こうか」
エンジンがかかり、車はゆっくりと駐車場から動き始めた。
◇◆◇
お昼はドライブスルーに寄って適当に買って、車内で食べた。
「本当はちゃんとしたお店で美味しいもの食べさせてあげたいんだけど…」
「いえっ、大丈夫です!そんなに気を遣ってくれなくても。俺、お昼はいつもこんな感じですし…三上さんこそ付き合わせてしてまって」
申し訳なさそうに言う三上さんに俺はブンブンと首を横に振る。
「さっきも言ったろう。そういうのは無しだって」
三上さんは前を向いたまま、右手を伸ばし、俺の頭をくしゃりと優しく撫でた。
「…ぅ…はい」
チラリと横目で見た三上さんは相変わらず格好良くて、俺が女の子だったら惚れてたかもなぁ。
…そういえば三上さんに彼女はいないのだろうか?
ふと思い付いた疑問に俺は三上さんの横顔を見つめた。
ジッと見詰めすぎたのか、赤信号で止まった時、三上さんは俺の方を向いた。
「もうすぐ着くと思うけど、どうかした?」
「えっと、あの…失礼なことかも知れませんが、三上さんて彼女は…」
信号が青に変わり、三上さんは視線を前に戻してアクセルを踏む。
「いないよ」
「えっ、嘘!?こんなに格好良くて優しいのに?」
「…ありがと」
一瞬何にお礼を言われたのか分からなくて俺は首をかしげる。でも、次の三上さんの言葉で俺は慌てて口を手で塞いだ。
「晴海君だけだよ、そう言ってくれるの」
「あ………」
「良ければこれからも俺と仲良くしてくれるかな?」
車は水族館の駐車場に入り、静かにエンジンが止められた。
「晴海君?」
ふと弧を描いた優しげな笑みに見つめられ、俺はぎこちなく頷く。
「俺でよければ…」
そう返せば三上さんは嬉しそうに瞳を細めた。
「降りようか」
促されてシートベルトを外し、ドアを開けるために三上さんに背を向けた瞬間何だが背にゾクリとした震えが走り、俺は振り返る。
何だ、今の?
「晴海君?どうかした?」
「…?何でも無いです」
よく分からない感覚に、俺は首を傾げながら車を下りた。
水族館は休日ということもあって混んでいた。
中でも家族連れやカップルが多く、俺達は周りから見たらどう見えるんだろう?
入場券を買いに行った三上さんの後ろ姿を見ながらぼんやり待つ。
「晴海君」
「あっ、ありがとうございます」
差し出されたチケットを受け取り、俺達は中へと入った。
展示された水槽の中には様々な種類の魚が泳いでいる。
「わぁ、綺麗な魚」
テレビとかでよく見る黄色や青、オレンジ色した魚が水槽の中を自由に泳いでいて、つい感嘆した様な声が口から漏れた。
水族館なんて小学生の時に一度来て以来だ。
「向こうにトンネル水槽があるみたいだけど行ってみるか?」
「行きたいです」
デートと言うことを忘れ、俺は純粋に楽しむ。それを三上さんは口元に笑みを浮かべ見ていた。
そして、俺達は順番に水槽を見て回りながら、頭上を魚達が泳ぐトンネル水槽に向かう。
「凄い…」
「楽しい?」
「はい」
上を見ながら歩いていたら、ちょうど俺の頭上をエイが通った。
「わっ!」
その迫力に思わず声が出る。
「ふっ…、晴海君。危ないから手繋ごうか」
「え?」
「浮かれるのも分かるけど、上ばかり見てたら危ないよ」
そう言って手を繋がれ、俺は三上さんに手を引かれるようにしてトンネルを抜けた。
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