03


俺の話を聞き終えた三上さんは困ったような表情を浮かべた。

「そっか、晴海君はまだ学生だしこんな話し早いよな。今はまだ遊びたい年頃だろうし。おじいさんに私からそう言ってあげようか?」

「いえ、いいです、いいです!!そこまで三上さんがしなくても。それに、きっと三上さんがそう言ってくれても祖父は絶対意見を変えたりしませんから」

「う〜ん、困ったな」

腕を組んで考え込む三上さんを見て、俺は心の中で心底この人を選んで良かったかもと安堵のため息をついた。

なんたって教師だし、教え子と同じ年頃の俺の事を一番分かってくれるんじゃないかって考えて選んだ人だし。

そして、俺はあらかじめ考えていた案を口にした。

「そこで何ですけど、三上さんには俺の婚約者のフリをして欲しいんです」

「あぁ、そういうことか。私が晴海君の婚約者になればおじいさんももうお見合いの話しは持ってこなくなる」

「そうです。とりあえず婚約者が出来れば後の結婚の話しはまだ学生だからとか色々言い訳できますし。三上さんには迷惑なお話かも知れませんがお願いできませんか?」

俺はそう言って三上さんに頭を下げた。

「う〜ん、どうしようかな…」

「失礼な事を言ってるのは俺だって分かってます。その上、こんな可愛くもない男の婚約者に、例えフリだとしてもなるのが嫌なことぐらい」

「そこは心配しなくても平気だよ。晴海君、写真で見たより実物の方が数倍可憐で可愛いから。私が心配しているのはそこじゃなくておじいさんの方。晴海君の頼みとはいえおじいさんを騙すことになるだろう?」

「うっ…。それは…」

言葉に詰まる俺に三上さんは俺の頭に手を伸ばし、くしゃくしゃと優しく撫でて言う。

「でも、他ならぬ晴海君の頼みだし良いよ。それにこんな可愛い子が困ってるんだ、教師として助けてあげるのは当然だろ」

三上さんは俺に優しく微笑んで承諾してくれた。

「〜っ、ありがとうございます。何か俺のわがまま、聞いてもらっちゃって」

「いいよ、これぐらい」

俺の頭から手を放して再びグラスを傾ける三上さんは大人の余裕っていうのか、さらりと俺の無茶なお願いを受け入れてくれて何だか俺にはカッコ良く見えた。





その後、また会う約束を交して、俺は問題が解決とはいかずも好転している事に上機嫌で三上さんと別れた。








晴海が去ったラウンジでは三上が先ほどまで浮かべていた笑みを消し去り、グラスに残ったカクテルを飲み干し一人呟く。

「あれが徳永 晴海ね。思った以上に綺麗で可愛くて純粋な奴。俺がどうしてこの話を受けたのか知りもしないで…」

くっ、と口端を吊り上げ三上は笑う。

「さて、次はどうするかな。優しい俺にぐらっときてたようだし、暫くはこのままでいくか」

三上は晴海の座っていた椅子を眺めて、愉快そうに目を細めた。



END


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