02
数日後―。
正装をさせられ、じいちゃんに連れてこられたのは高級ホテルだった。
最上階のレストランで相手が来るのを待つ。
はぁ、何が嬉しくて男とお見合いなんかしなきゃいけないんだよ…。
ちらりと横を見ればじいちゃんはにこにこと笑ってるし、もう帰りたい。
「すいません、遅くなってしまって」
そこへ、スーツに身を包んだ相手が現れた。
「いやいや、こちらこそお忙しい中来ていただいて。晴海」
じいちゃんが立ち上がって俺に視線を向けてくる。
「初めまして、徳永 晴海です」
椅子から立ち上がり、俺は相手に失礼の無い様にっこり笑って挨拶をした。
「初めまして、晴海君。私は三上 玲士(ミカミ レイジ)です。よろしく」
三上さんは写真通り整った顔立ちに漆黒の髪と切れ長の鋭い瞳を持っていて恐そうな人かなと俺は想像していたが、写真で見たより柔らかい笑顔でそう応える三上さんは優しく見えた。
「まぁ、座って下さい」
じいちゃんが三上さんにそう言って俺達も席に着いた。
そして運ばれてきた食事をとりながら会話が交わされる。
「ほぉ、教師も大変じゃな」
「えぇ、まぁ。でもその分やりがいはありますよ」
主に話してるのはじいちゃんと三上さんで俺はたまに会話に交ざるだけだけど…。
時間の流れは早いもので食事を取り終わるとじいちゃんが席を立つ。
「それじゃ食事も終わった事だしワシは帰るかな」
「えっ!?じいちゃん?」
何言ってんだよ。まさかお見合い定番の後は若い二人で…ってやつか!?
冗談じゃないぞ。三上さんは良い人そうだけど…。
「下まで送って行きましょうか?」
「いや、いい。二人とも後はゆっくりしていきなさい。晴海、三上さんに迷惑かけんようにな。はっはっは」
じいちゃんは会計をすませると本当に帰ってしまった。
「晴海君、おじいさんもあぁ言ってる事だし下のラウンジにでも行くかい?」
「あっ、はい」
すっ、と手を差し出されて俺は迷ったが、ちらりと見上げた三上さんがにっこり笑っているので断るのも悪いかな、と思って手を重ねた。
ラウンジにある小さめのバーで俺は烏龍茶を三上さんはカクテルを飲みながら世間話をする。
「晴海君は東青高校に通ってるんだっけ?学校は楽しい?」
「はい、楽しいです。クラスの皆仲良くて、この前あった球技大会で俺のクラス優勝したんですよ」
「それはいいね。私のクラスには問題児が一人いて大変だよ」
肩を竦めて苦笑する三上さんは、教師という職業柄かとても話し安く、今日初めてあったにも関わらず警戒心を持たなかった。
うん、この人なら協力してくれるかも。
俺は決意して本題を切り出した。
「あの、三上さん」
「何だい?」
「俺の祖父が持ってきたこのお見合いどう思ってますか?」
俺の真剣な表情に三上さんは傾けていたグラスをテーブルの上に置くと、俺と視線を合わせる。
「そうだな…、晴海君はどう思った?」
質問を質問で返され俺は口ごもった。
「俺は…」
「怒ったりしないから正直に話してごらん」
三上さんに優しく促されて俺は全て正直に話した。
お見合いも結婚もしたくないと。さすがに直に男と見合いなんておかしいとは相手を目の前にして言えなかったが。
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