偽りの婚約


俺、徳永 晴海(トクナガ ハルミ)。

十八歳の誕生日を向かえた次の日、じぃちゃんが一日遅れで俺の誕生日を祝うため家にやって来た。

「晴海ももう十八。そろそろ結婚相手を決めねばな」

「ぶっ、…何言ってんだよじぃちゃん!!」

俺は飲んでいた茶を吹き出した。

「汚いぞ、晴海」

じぃちゃんはずずーっと茶を飲みながら非難する。しかし、そんなことに俺は構っていられなかった。

「それより結婚って何だよ!?」

「なんじゃ、晴海はそんなことも知らんのか。結婚とは男女が…」

「ンなこと聞いてんじゃない!!」

「おぉ、そうか。相手のことが気になるのか」

じぃちゃんは俺の話を無視して、持参した紙袋からA4サイズの厚紙を数枚取り出すとテーブルの上に乗せた。

そしてその中から一枚選んで開くと俺の方に向ける。

「この人なんかどうじゃ?中々の好青年じゃぞ」

そこには可愛い女の子でもなく、美人な女性でもなく、スーツ姿で眼鏡をかけ爽やかに微笑む青年の写真が貼られていた。

って、どう見てもお見合い写真…。

「じぃちゃん!!そういう問題じゃなくて、それ以前に俺の性別考えろよ!!俺、男だぞ!!!」

しかし、じいちゃんには俺の正論も通じなかった。

「それが何じゃ。まったく晴海は器が小さいのぉ。先方はどなたも快く承諾してくれたというのに…」

「うぇぇぇ!?勝手に何してんだよ、じぃちゃん!!」

「お前の写真を見せたら皆可愛いですね、と言うて下さってワシも鼻が高かったわい。はっはっは…」

徳永財閥を一代で築いた創始者、徳永 才蔵(トクナガ サイゾウ)は上機嫌で、げんなりしている孫の前で高笑いを続けた。

「それでじゃ、晴海。この中からお前の好みの男性を一人選べ」

じいちゃんはテーブルに置いたお見合い写真を俺の方に押し付ける。

「選べって…。俺も男だって言ってるだろ。それに結婚するなら可愛い女の子がいい」

「何を言う!?おなごに晴海と徳永財閥を任せられるワケなかろう!!」

「はぁ?何言ってんのさ。父さんだって母さんと結婚してんじゃん」

それでもじいちゃんは一人拳を握り締めて力説する。

「ワシの跡を継げば不逞の輩も出てくるじゃろう。そこで、晴海には守ってくれるナイトが必要なんじゃ」

うんうん、と自分の言葉に頷くじいちゃんに俺はついていけなくなってため息をついた。

大体ナイトって何だよ。自分の身ぐらい自分で守れるってのに。はぁ〜。

俺のことになるといつもこうだもんなぁ。父さんと母さんは、じいちゃんは俺を溺愛してるから仕方ないよって言うけど、される俺としてはもうちょっと控えて欲しいよ…。

「分かったな、晴海」

「分かったよ、分かった。この中から一人選べばいんでしょ」

俺が仕方なくお見合い写真を手に取るとじいちゃんは再び茶をすすりながらにこにこと笑顔になった。

はぁ〜。

「何々…」



・高浜 健一郎 27
高浜財閥跡取り 黒目黒髪で眼鏡の爽やか好青年

・豊島 喜壱 28
豊島建築会社社長 茶目茶髪のワイルド系

・相模 直樹 29
相相模総合病院院長 茶目黒髪の温和そうな人

・三上 玲士 25
三上財閥次男 高校教師 黒目黒髪のカッコイイ系

・樋口 遠矢 22
樋口財閥跡取り 大学生 茶目金髪のちょっと不良っぽい人


「う〜ん」

俺が写真を広げて悩んでいるとじいちゃんがちゃちゃをいれてくる。

「どうじゃ、皆美男子じゃろう。晴海が迷うのも分かるわ。はっはっは」

「じいちゃんちょっと黙っててくれよ!!」

俺の一生がかかってるんだ。ここは話の分かってくれそうな人を選ばなくちゃ。

「う〜ん」

この人なら分かってくれるかな…?

俺は淡い期待を込めてその写真をじいちゃんに渡した。

「おぉ、そうかこの人か。では早速先方に連絡して会う日取りを決めねばな」

じいちゃんは一人生き生きと嬉しそうに写真の相手に電話を掛け始めた。



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