02


『閑ヶ原、お前今何処にいる!?』

「今?自室にいるがどう…?」

《何だ、どうした?》

『実は今、アレが…』

和成に同調して椚の話を拾ったカズは次の瞬間、和成から了承を得る前に身体の主導権を奪う。

《っ、カズ!?》

「チッ、おい椚!あのストーカー野郎はお前に任せる。俺は一旦、学校の外に逃げるぜ」

『…それならトワイライトと言う店へ行け。あぁ、説明する時間が惜しい。とにかく行けば分かる』

「分かった」

編入生がここへと接近しているという話に黙っていられず表に出たカズは、必要最低限の身分証と財布、携帯電話を持っていることを確認し、寝室の奥に隠されていた緊急用ダストを素早く開く。

「話は聞いてたな?こっから店に行くまでお前の身体借りるぜ」

《それは構わないが…》

「結局巻き込んだとか思うなよ。俺も椚も好きでやってることだ。さぁ行くぜ」

緊急避難用のダストシュートに身を滑らせ、カズは地上に降りると一目散に裏門を目指し、門を乗り越えて学校を後にした。


◇◆◇


あと数分もすれば沈んでしまいそうな弱々しい太陽光が、並び立つビルの窓ガラスを茜色に染める。
東の空から広がる薄闇にポツポツと街の片隅から灯りが灯されていく。

「もう夕方になっちまったのか。大丈夫か、和成」

《俺のことより前を見ろ、前を》

人気の少ない路地で空を見上げてポツリと溢したカズは複数の不良に囲まれていた。

「俺達を前に余所見とは随分余裕じゃねぇか」

「店の場所を聞いただけでどうしてこうなるんだか。まぁ、売られた喧嘩は買うけどな」

《カズ!》

とは言え、和成の身体を傷付けるわけにはいかねぇから主に蹴り技中心だ。

応戦しようとカズが構えた所で横合いから鋭い声が飛んできた。

「貴様らそこで何をしている!店の周囲一キロ圏内での乱闘は御法度だと知らぬわけじゃあるまい!」

「ひっ、御影(ミカゲ)さん!」

「あの、これはっ、その…」

すらりとした体格で厳しい表情を浮かべて辺りをねめつけた御影と呼ばれた青年は和成で視線を止めるとカツカツと踵を鳴らして近付いてくる。

「む…、この顔。お前が閑ヶ原 和成か?」

「そうだって言ったら?」

「ついて来い。中々現れないので総長が心配している」

言うだけ言って向けられた背中にカズは和成へと尋ねた。

「どうする?」

《ここにいても仕方ない。ついて行ってみよう》

「分かった。けどまぁ安心しろ、何があってお前は俺が守るから」

《カズ…》

カズは何処にいてもどんな時でもずっと俺の側に寄り添い、励まし、慰め、時には抱き締めてくれる。頼りになるその存在を和成はカズが思う以上に大切にしたいと思っていた。

《それならカズは俺が守る》

「さんきゅ。そう言われると頼もしい限りだ」

御影と呼ばれた男の背を追って辿り着いた先に、二人が探していたトワイライトという看板の出された店があった。店自体は地下にあるのか御影は迷うことなく薄暗い階段を下りていく。

《行こう》

「あぁ」

カズも和成も周囲を警戒しながら階段を下りて行った。

階段を下りきるとどこかレトロな扉があり、御影はその扉を手前に引いて開ける。途端、静まり返っていた場にがやがやと沢山の人の声が聞こえてきた。

御影に続き、店へと入ったカズはそこがナイトバーと呼ばれる店だと瞬時に理解する。

「総長。客人を連れてきました」

物珍しさについ周囲に気を散らしていたカズは御影の声にバーカウンターに座る一人の男へ目をやった。するとそこには思ってもない人物が、椅子に腰かけていた。

「椚…!?」

《何でここに!》

学園で良く見知った人物、和成に逃げろと言った張本人がそこにはいた。
驚きに目を見開いたカズに椚は苦笑を浮かべる。

「驚いてるとこ悪いが俺はアンタの知ってる椚じゃねぇ」

「どういう意味だ?」

「俺はアンタの学園にいる椚の双子の弟だ。名前は玖郎(クロウ)。兄貴から閑ヶ原 和成って男をうちで保護して欲しいって連絡受けてアンタを捜してた」

《椚が…》

じんわりと和成の胸に温かさが宿る。同じ身体を共有するカズはそれを感じて瞳を細めた。

「あとで椚には礼をしなくちゃならねぇな。アンタにも」

「俺は別に。とりあえず座れよ」

椚…、玖郎の隣を勧められカズは椅子に腰かける。御影は役目を終えたとばかりに再び店を出て行ってしまった。

「なに飲む?」

「そうだな…」

《俺達はまだ未成年だから酒は飲めないよカズ》

思案するように呟いたカズの頭に和成の生真面目な声が響く。それにふっとカズは口許を緩め、烏龍茶ってあるか?と玖郎に尋ねた。

「一応あるが…」

「何だ?」

《……?》

ジッと上から下まで訝るように眺められ、カズと和成は首を傾げる。

「いや、初対面の俺が言うのもおかしいんだが兄貴から聞いてたアンタのイメージと目の前に居るアンタじゃ何か違和感があるな」

「…へぇ」

玖郎の観察眼にカズは興味深そうに相槌を打った。



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