たった一つの宝物


それは僕が児童養護施設に預けられた時から片時も離さず持っていた唯一のもの。
だいぶ色褪せてしまったが、触り心地の良い鬣(たてがみ)に子供向けに可愛らしくデフォルトされた全長25cmのライオンのぬいぐるみ。

僕には此処へ預けられる前の八歳までの記憶が無い。何故、失ってしまったのか分からないが、僕を此処に預けていったのが女の人で、多分その人が僕の母親じゃないかと施設の園長は教えてくれた。名前も名乗らなかったその人が園長に託していったのは僕の名前だけ。
だから僕の名前はその時から『平良 翼』だ。平良(たいら)はこの施設の園長先生から貰った名字だ。

「ん…?おかしいな…」

僕がここでお世話になってから十年。
今年で十八になった僕はそろそろこの施設を出なければならない。その為に自分の荷物を纏めていたのだが。
つい懐かしくなってライオンのぬいぐるみを手にぼぅっとしてしまった。
そして、ぬいぐるみを触っていて今になってそのぬいぐるみの縫い目の中に不自然な縫い目を見つけていた。
綺麗に縫製されたライオンの背の部分、毛皮に埋もれる様に明らかに手縫いだと分かる縫い目が存在していた。

「何で今まで気が付かなかったんだろ?」

指先で撫でる様に縫い目に触れて、その部分が何となく硬い気がして、ライオンのお腹や頭の部分を指先で押してみる。すると他の部分にはちゃんとふわふわと綿が詰まっている感触がした。

「…何か入ってるのかな?」

そんな、馬鹿な。と子供の頃から大事にしているぬいぐるみをじっと見つめて、やはり気になって妙な縫い目の部分だけ、慎重に鋏を入れて糸を切ってみた。

何もなければ後でちゃんと縫い直すからな、レオン。

心の中でライオンのぬいぐるみにそう語りかけ、糸を慎重に引き抜いた。

「さてと、何が…」

そっと開いて見れば綿の間に小さな紙切れが、折り畳まれる様にして入っていた。
誰がこんなものをと首を傾げつつ、綿の間から紙切れを取り出す。
ぬいぐるみを足の上に置いたまま、紙切れを開いた。

「ーーっ」

途端、目の前がちかりと瞬いた様に眩み、知らず知らず喉の奥から込み上げて来た悲鳴を押し殺す様に唇を噛んでいた。

あぁ、どうして…。どうして、こんな…。
僕はこんなに大事な事を忘れていたのか。
僕の母さんは、父さんは…。

折り畳まれていた紙切れは女性と男性、それに小さな子供。三人が幸せそうな顔で笑っている家族の写真であった。
また、写真の左隅には人の名前が走り書きされており、困った事があればその人を頼るようにと書かれていた。

そうだ。あぁ、これも…、僕は知っている。
知っていたはずだ。だって、この紙に書かれた名前は…。

まるで今まで忘れていた事が嘘のように八歳までの記憶が頭の中に甦ってくる。
鍵を掛けて開かなくなっていた引き出しがようやく開いたように次から次へと。記憶が洪水の様に溢れてくる。

「…寛(かん)兄ちゃん」

子供の自分から見て、見上げるほど大きかった体躯。会う度に抱き上げてくれた腕は太く、力強くて、落とされる不安なんか微塵も感じなかった。間近に迫った、つり目気味の鋭い眼差しが優しい色を湛えていて。
赤茶色の短い髪は意外と柔らかくて、僕は寛兄ちゃんに抱き上げてもらう度にその髪に触れていた気がする。
なにより、彼は周囲にいた大人達の中で、一番僕と遊んでくれた。遊び相手だから、僕は酷く懐いていた。寛兄ちゃんは僕の!と言って。
その彼がいないと泣いて、彼がいるとまだ帰りたくないと駄々を捏ねて両親を困らせた。
その度に寛兄ちゃんは困ったように笑って、その場でしゃがむと僕と視線を合わせて言った。

『翼。また直ぐに会えるから。今日はバイバイしようぜ』

『いやだっ、…ぅー…、すぐっていつ?』

『翼が俺に会いたいって思ったら、すぐだ』

『ほんとう?』

『俺が翼に嘘ついたことあるか?』

『ううん…』

『だろ?だから、今日はもうバイバイするけど、また直ぐに会えるから。またいっぱい遊ぼうぜ』

翼は良い子だから出来るよなと、頭をぐしゃぐしゃに撫でられて、僕は涙で濡れた顔を晒したままこくりと頭を動かした。
そして、僕は母さんに手を引かれ、大きな門をくぐる。見送りに立つ寛兄ちゃんの姿が見えなくなるまで僕は小さな手を振っていた。

「寛兄ちゃん…。僕が会いたいって思ったら…、……っ?」

「ーーつばさ!?」

あれ?と遠くで園長先生の声が聞こえると思った時には、どこか意識は遠く波にさらわれる様に沈んでいた。
一気に流れ込んできた記憶のせいで、僕はその後三日も熱を出して、施設を出る処か、お世話になってしまっていた。







自ら花屋で墓前に供えるようの花束を購入した男は、目の前で開かれた黒塗りの車の後部座席に乗り込もうとして、ふと足を止めた。

「………?」

「若、どうなさいました?」

「いや…気のせいか」

短く切られた赤茶色の髪を軽く左右に振って、男は後部座席に乗り込む。車内はがっしりとした体躯に長身の男でもゆったりと座れる広さがあり、男の他には運転手と助手席に一人。舎弟と呼ばれる男がいるだけだ。

「出せ」

後部座席に座った男の一声で車が発進する。

男は窓の外を流れる景色には目もくれず、今しがた購入したばかりの、己の膝の上に置いた華やかな花束に視線を落としていた。

(兄貴…、姐さん。それに…翼)

男には過去、年の離れた二人の兄がいた。
長兄は今も健在で、家業である暴力団組織岩倉組の頭を張っている。だが、次兄は男が海外留学に追いやられていた十年程前に敵対組織との抗争の末に命を落としてしまっていた。
そして、その当時、次兄には大層器量も良い嫁がおり、二人の間には翼と名付けられた八歳の子供もいた。

(俺はまだお前が何処かで生きてると信じてる…)

次兄とその伴侶は共に同じ場所で亡くなっているのを発見されたが、二人の子供である翼の姿は何処にもなかったという。何とか抗争を終結させた後、長兄が組員総出で子供の姿を捜させたが何一つ手がかりは見つけられず。
男が海外留学という名目で組から遠ざけられ、守られていたという事実と抗争の全てを聞いたのは次兄夫妻の葬式を挙げる為に帰国させられた日であった。

(誰が何と言おうと…俺だけは)

後から全てを知らされた男が長兄を相手に激怒し、暴れたのは仕方がないといえよう。男は知らぬ間に身内を二人、次兄と義理の姉を亡くしたのだ。

(絶対に見つけてやるからな、翼)

記憶の中の幼い子供がこちらに向かって両手を伸ばして笑う。年をとるごとにその笑顔は曖昧に薄れていってしまうが、その口から紡がれる柔らかな声はずっと耳に残ったまま。…俺を呼ぶ。

『ーー寛兄ちゃん』

岩倉 寛寿(かんじゅ)、それが男の名前だった。








児童養護施設を退去して、一人暮らしと同時に働き始めた翼は記憶を取り戻したからといって直ぐには動けなかった。
まずは一人暮らしと仕事になれる毎日に必死で、何もする余裕がなかったのだ。
また、最初のうちは施設の人がちょくちょく様子見に訪ねて来てくれたりもした。
それも三週間ぐらい経って、何となく自分の生活サイクルが決まってくると心に余裕も出来てきて、翼はようやく『寛兄ちゃん』に関する情報を調べ始める事が出来るようになったのだ。

まず最初に自分の両親に関すること。
これはきっと事件らしく、大きなニュースになったに違いないと不安に揺れる心を宥めすかしてインターネットで検索をかけてみた。すると、暴力団関連の記事が幾つもヒットしてきた。
その一つ一つに目を通して、思い出したばかりの優しい両親の顔が脳裏に浮かんで、胸が苦しくなる。知らない内に唇が震えて涙が零れていた。

「っ、…ふ…ぅ…」

両親の温かさを心が覚えていた。いくら記憶が薄れても心の奥深くにある柔らかい場所には刻まれているものだ。

「とーさん、かーさん…」

パソコンの側に置いていた、ライオンのぬいぐるみを握りしめ額を押し付ける。

少したてがみが涙で濡れてしまったけど、許して欲しい、レオン。

それから記憶の中に埋もれていた朧げな風景やその頃耳にしたことのある地名や店名など、覚えている範囲で思い出して、片っ端から検索をかけてみる。

「あ、僕の本当の名前…」

園長先生から貰った名字ではなく、僕が生まれた時から持っていた名前。
それは、『岩倉 翼』。それが僕の本当の名前で、両親に関する記事を検索すると必ず出て来る組織。――岩倉組。葉桜会所属の暴力団組織。

現在、岩倉組は十年程前の抗争を最後に大人しく粛々と組織運営されており、その組長が父さんのお兄さんで。僕が『寛兄ちゃん』と懐いていた人は、父さんの弟。つまり僕から見ると叔父さんであった。

「寛兄ちゃん…。僕が会いたいっていったら、会ってくれるかな」

それとも今更と言って、追い払われるかも知れない。最悪、僕の事などもう忘れているかも知れない。僕だって十年もの間、忘れていたのだ。たとえそれが不可抗力だったとしても。

「そしたら、せめて…父さんと母さんのお墓の場所だけでも」

それだけでも教えてもらえれば。それ以上は何も望まない。

僕は岩倉組が居を構えていているらしい地域の地図を印刷して、次の休みの日にその周辺へ行ってみることにした。

少しだけ、僕に勇気をくれ、レオン。

ほんの少し湿っぽくなったライオンの鬣に額を押し付け、ふと思い出した記憶に、ぽつりと言葉を落とす。

「お前は寛兄ちゃんが自分の代わりにって、僕にくれたものだったね」

ずっと両親からの贈り物だと思っていたが、レオンは忙しい両親の代わりに翼と遊んでくれていた遊び相手がくれたものだった。翼が一人でも寂しくないようにと、自分の代わりにと。

「うん、大丈夫」

たとえ、寛兄ちゃんが僕の事を忘れていても、寛兄ちゃんは優しいから、お墓の場所ぐらいは教えてくれるはず。そう思えばほんの少し勇気が出た。



そして、さらに一週間が経った今日。
僕は電車に乗って、遠い昔歩いた事のあるらしい道を一人歩いていた。

地図を片手に駅前の商店街や住宅街といった道を抜け、転々と広い敷地を誇る一軒家が立ち並ぶ住宅地へと足を踏み入れる。僕の背よりも高い生垣にコンクリートの塀。敷地の中は見えないが、大きく道路にはみ出した松の枝が凄く立派だ。

「あれは桜の木かな?」

道路沿いに見える老木に目を移せば、緑の葉が茂っている。
道なりにどんどん奥に進んで行けば、T字路にぶつかる。そこで一度立ち止まって手元の地図を見る。

「んー…、ここを右手に歩けば」

そろそろ『岩倉組』の屋敷が見えて来るはずだ。

地図通りにT字路を右に曲がると、すぐそこにその屋敷はあった。
『岩倉組』と立派な門構えの門柱に古めかしい表札が掲げられている。

「あ…」

それは僕の記憶の中にある屋敷の風景と完全に一致していた。
何度も寛兄ちゃんに見送られて後にした大きな門。僕がそこの角を曲がるまで手を振ってくれていた。脳裏を過ぎった過日の光景に心が震え、じわりと涙腺が緩む。

「おい!そこのお前!そこで何してる!」

しかし、感傷に浸る間もなく、大きな声で怒鳴られ、涙が引っ込む。

「っ!」

かけられた声で我に返って、自分が屋敷の真ん前で立ち止まっていたことに気付く。

「ここが岩倉組と知って来たのか!うちに何の用だ?」

じろりと鋭い目つきで睨まれ、一瞬言葉に詰まる。

「あのっ、僕は…」

「あぁ?どっかの鉄砲玉か?それにしちゃぁ、弱そうだなぁ、あぁ?」

何とか言えと、短く刈り込んだ髪に、鋭い目つき。筋骨隆々そうな風体の男に凄まれて、思わず視線をさ迷わせる。それでも何とか用件を告げようと口を開いたが。

「あの、ここに今、かんにぃ、…岩倉 寛寿さん、いますか?」

「はぁあ?てめぇみたいな坊主が若に何の用だ?」

「ワカ…?」

「はっ、そんなことも知らねぇで来たのか。だったら止めときな。ここはてめぇみたいな奴が来るとこじゃねぇ。さっさと帰れ」

しっしっと追い払うような仕草をされ、取り付く島もない。

「でもっ!」

「でももなんもねぇ。帰れって言ってんだよ」

屋敷の中はおろか、敷地内にも入れる気は無いとばかりに門前に立ちはだかられて、僕は肩を落とす。まさか、寛兄ちゃんに会うどころか、会う前に門前払いされるとは思わなかった。
これはこの人がいない時にもう一回来た方が良さそうだ。そう考えて僕は仕方なくその場から立ち去ることにした。心の中にほんの少しだけあった勇気が萎んでいく。

「まったく、最近のわけぇ奴は。うちなんかに来ず真っ当に働けってんだ」

それから暫くして『岩倉組』の中から一台の黒塗りの車が出て行った。



その後さらに一週間経ったあくる日…
しおしおになりかけた勇気を振り絞るべく、僕は肩から斜め掛けにした鞄の中に寛兄ちゃんから貰ったライオンのぬいぐるみレオンをひっそりと忍ばせて、住宅地の中をゆっくりと歩く。

「今日こそ会えると良いけど…。レオン、僕に力をくれ」

斜め掛けにした鞄の紐を右手でぎゅっと握り、鞄の中に入っているレオンの頭を撫でるように鞄の表面を左手で撫でる。
先日と同じ道を行き、『岩倉組』の屋敷、その門前が見えてきた辺りで一度足を止める。

「あの人、今日もいるのかな?」

曲がり角で足を止めた僕は、深く深呼吸を繰り返して、静かに曲がり角から顔を出す。屋敷の門前に誰がいるか確認しようと遠目から眺める。その僕の横を一台の軽自動車が通り過ぎ、ちょうど僕が見ていた『岩倉組』の門前で停車した。
軽自動車が止まると、屋敷の中から人が迎えに出て来る。

「あっ、この前の人!」

僕を門前払いした怖い人が出て来て、軽自動車の後部座席から降りた眼鏡をかけたスーツ姿の若い人へ頭を下げる。二言三言、言葉を交わしながら二人は屋敷の中へと歩いて行く。

「あの人、誰だろ?」

もちろん僕には誰が誰だか分からなかったが、これはチャンスじゃないかとちょっぴり勇気がわく。僕を門前払いした怖い人以外に、他の人に会えるかも知れない。その人に話を聞いてもらえれば。
そう勇気を出して曲がり角から足を踏み出す。門前で停車していた軽自動車はスーツ姿の男の人を降ろした後は何処かへと走り去って行った。
僕は再び、『岩倉組』と看板の掲げられた門前の前に立つ。
思った通り、あの怖い人はいない。僕は敷地の中を覗き込むようにして、他に人がいないかきょろきょろと視線を走らせた。

「…んぁ?どこのもんだ、坊主?」

すると屋敷の広い庭にいた一人の男が僕に気付いて、不審そうな眼差しを向けてきた。背は低くめで、横にがっしりと大きい。シャツと太い首の隙間から覗く金のネックレスがきらりと光り、野太い低い声とどこか座った眼差しがびりびりとした息苦しさを感じさせた。

「っ、あの…僕は…」

のしのしと庭から歩いて門前に出てきたその男に、僕は何とか用件を告げようと口を開く。
下に下がりそうになる視線を上げて、緊張から硬くなった声で何とか伝える。

「岩倉 寛寿さんにお会いしたくて」

「若に?坊主が?…何の用で?」

疑問を持たれた様子ではあったが、この人はちゃんと僕の話に耳を傾けてくれるようだと僅かに安堵する。

「その…」

「あーっ!てめっ、また来たのか!!」

しかし、その内容を告げる前にこの前の男が割って入って来た。どうやら先程のスーツ姿の男の人とのやり取りは終わってしまったようだ。声を上げて近付いて来た門番の男に視線が移る。

「なんだ、ゴウ。お前、こいつを知ってるのか?」

「こいつ、この前もうちに来たんすよ。若に用があるとかで」

そして、男にゴウと呼ばれた門番の男の視線がこちらに向く。

「ほら、帰れ。若に何の用だか知らねぇが、ここはてめぇの様なガキが来るとこじゃねぇ。さっさと自分の家に帰りな」

再び追い払う様に帰れと言われる。
せっかく沸いた勇気も、その一言で空気が抜けたように小さくなっていく。

「自分の家…」

そうか、自分の家は、僕の家はここではないんだ。そうだ、当たり前だろう。
ここは僕のお父さんの実家で、寛兄ちゃん、…叔父さんの家で。僕の家ではない。
この人の言う事の方が正しいんだ。
…何を勘違いしていたんだろう。いくら僕が寛兄ちゃんに会いたくても、僕は寛兄ちゃんの家族でも無ければ、子供でもない。

そんな簡単なこと始めから分かっていたはずだ。
だから、せめて、両親のお墓の場所だけでもと。そう思ったはずじゃないか。

この場に来て、昔の事を思い出したせいで、寛兄ちゃんなら僕を受け入れてくれるといつの間にか勘違いしちゃったんだ。甘えすぎていたんだ。まるで心が子供の頃に戻ってしまっていたようだ。

僕は泣きそうになるのを我慢して、これだけはと最後に言葉を紡ぐ。

「ここには…もう来ません。なので、最後に一つだけ教えて下さい」

それは己の両親の眠る場所。

「あぁ?なんで、そんなことを聞く?」

「それなら…」

不信がるゴウの代わりに、隣にいた男がその場所を答える。
それだけを聞いて、僕は頭を下げた。

「分かりました。ありがとうございます」

下げた頭を上げられずに、僕はそのまま踵を返す。
先に言った通り、ここにはもう来ないと、過去の想い出を振り切るように、泣きたくなる感情を押し込めて足早に門前を後にする。

「いや……、っちょっと、待て!坊主!おい、坊主!」

背後で呼び止められた気もするが、僕は込み上げてくる感情を呑み込むのに手いっぱいで、一度も振り返らなかった。

「カジさん?どうしたんです?いきなり呼び止めたりして…」

「馬鹿野郎っ!思い出したんだよ!そんなことより、早く若に報告をっ!」

「ーー寛寿には俺が伝える!!お前らは早くあの子を追え!!」

「高野先生!?」

表の騒ぎに気付いた眼鏡にスーツ姿の男、高野先生と呼ばれた岩倉組専属の弁護士先生がいつになく厳しい面持ちで寛寿に代わり、てきぱきと指示を出す。彼は岩倉 寛寿と同い年の昔からの幼馴染であった。そして、寛寿が自分の甥である十歳年下の岩倉 翼に心を寄せていたことも当然知っていた。




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