-未来へ-
もうはなれない、はなさない。あなたが、きみが、おれの、ぼくの、ゆいいつのひかり。
-未来へ-
レイはゆっくりと足を進め、クイーンが座っていたソファーに腰を下ろした。
クイーンから全てを聞いた俺はレイを見れなくて視線を足元に落とす。
「ナギ…。俺が怖いか?」
ふるふると首を横に振る。
怖いのはレイにそんな道を選ばせてしまった自分だ。
「そうか。だったら顔を上げてくれないか」
「……俺はレイに合わせる顔がない」
俺は自分の事ばかりでレイの事を考えてなかった。
「それは俺の方だ。俺は、…施設の人間もナギの養父も養母もこの手で殺した。お前に恨まれてもしょうがないと思ってる」
「でもっ、それは俺の…!」
「違う。俺が、自分の意思で選んで、この手で殺した」
ぎゅっと固く握られたレイの拳が俯いた視界に入る。
どうして俺のせいだって言わない?
「可笑しいだろ?俺はこの手を血に染めてもお前を手放せないんだ」
罪の意識も後悔もしていない、とレイは自嘲するように告げた。
「…俺が待ってるなんて言ったから」
「言わなくてもきっと俺はお前を探した」
何でそんなこと言うの?優しすぎるよレイ。
その優しさが今は痛い。
ますます顔を上げられなくなる。
シンと二人の間に沈黙が落ちる。
俺はどうしたらレイに償える?レイの幸せを奪ったのは紛れもなく俺なんだ。
「ねぇ、レイ。俺どうしたらいい?もう分からないんだ。どうしたらお前に償える?」
「…何、言ってんだ?」
レイが険しい声で問う。
「だってそうだろ?レイの幸せを俺が奪ったんだ」
ギシッと音がしてレイが席を立つのが分かる。
そして、テーブルを避けて俺の直ぐ側で足が止まった。
「俺はレイになら殺されたっていい…」
俺が小さく落とした言葉を拾ったレイは、座っていた俺の胸ぐらを掴むと強い力で引き上げた。
「――っ!?」
ナイフの様に鋭く細められた眼光が間近に迫る。
「俺の言葉は、…お前の心に届いてなかったのかっ!!俺の幸せはお前と共にあることだ!それをっ、お前は何度俺を裏切るんだ―!!」
苛烈さを滲ませる強い瞳から透明な滴が頬を伝って落ちる。
「―っ!?」
レイが泣いてる。強くて優しいレイが。俺が、泣かせた。
音もなく静かに落ちる涙が俺の頬をも濡らす。
「お前が俺と共に居られないって言うなら俺を殺していけ」
「…っ!?そ、んなこと…出来な…」
それでも強い視線は変わらず俺を見ている。
「でなきゃ、俺はお前を手放してやれないっ!」
辛そうに言葉を吐き出したレイに困惑する。胸が締め付けられるようにキリキリと痛む。
―幸せは人それぞれ違うものよ。
―貴方の思う幸せとジェイの思う幸せ…
何でか分からないけどクイーンの台詞が頭を過った。
「…レイの幸せの中に俺はいるの?いても…、いいの?」
声が震える。視界が滲んで良く見えない。
ふっと胸元から圧迫感が消え、痛いぐらい強く抱き締められる。
「っ、いいに決まってるだろ!お前じゃなきゃ駄目なんだっ。ナギしか要らない…、ナギしか―」
つぅと俺の頬を冷たい滴が落ちていった。
痛いくらい抱き締められて、それに呼応するかのようにぼろぼろと涙が溢れる。
「…っ…ふっ…ひっく…」
レイの肩に顔を押し付けて、声を殺す。
「そんな泣き方するな」
頭を撫でられる。
「ぅっ…ぁ…ぁあ…」
なんだかレイと再会してから涙が止まらないんだ。
だって本当は、
感情を殺してまで待っていたのは誰?
他人を手にかけてまで生きようとしたのは何で?
それは…
「…ぉれも…レイとずっと、一緒に…っ…いたい…」
レイに会いたいが為―。
ずっとずっとレイを待っていた―。
その顔を見た時、夢じゃないかと疑うほど本当に嬉しかった…。
ぎゅっとレイの服を握り締め、嗚咽混じりに想いを吐き出す。
「でもっ、…っく…いられないっ。…だって、俺が…んっ…いると…レイを苦しめる。それがっ…っ、俺は…許せない…」
抱き締めるこの腕を放せないのは俺の方だ。
「ナギ」
優しい声が降って来る。
「ナギ…。俺は、お前が側に居ない方がもっと苦しい」
ソッと少しだけ身体を離して、レイが言う。
「お前が償いたいと、それでお前が自分を許せるというなら、…俺の為に生きてくれ」
頬に唇が寄せられ、涙を掬われる。
「俺の側に居てくれ」
「…っ…ぅ…」
「それが償いだ―」
その声に許された気がした。
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