02
そして、キングはクイーンを見つめて瞼を伏せた。
「…俺の負けだ。そうなったらきっと俺も迷わず組織を切り捨てる。クイーンに代わる者なんて存在しねぇ」
戦意を喪失し、そう回答したキングにジェイは纏っていた殺気を霧散させ、クイーンを解放した。
解放されたクイーンはキングに近付き、抱き締められる。
「俺の邪魔さえしなければいい」
誰であろうと消す、と言ったジェイだったが目の前に写る光景に僅かばかり胸が痛み、無意識にそう口にしていた。
何かに耐えるよう表情を歪ませたジェイに、数瞬前まで命の危機に晒されていたというのにクイーンが声をかけた。
「ねぇ、ジェイ。貴方の大切な人は今何処に居るの?どうして命令が下りてきたの?」
原因となった事柄は何なのか、クイーンが問うた。
「お前等には関係無い」
しかし、ジェイは耳を貸さず突っぱねた。
だが、
「…ルーク?」
唐突に沈黙していたエースがポツリとそう呟いた。
それにジェイが肩を揺らして反応した。
気付けばいつの間にジェイの手から離れたのか、赤く染まった紙がエースの手にあった。
「次のターゲット?あれ?でも、ルークっていやぁ敵対組織の幹部だよな」
とうとうこの組織を潰しにでもかかるのか?と、場の空気を一切無視したエースがのほほんと言った。
思わぬところからもたらされた情報に、室内に沈黙が落ちる。
その中、カツンと靴音が一つ鳴り静寂が破られた。
「どこ行くんだジェイ」
「………」
「今乗り込んだところで結果は目に見えてる。それが分からねぇお前じゃないだろ」
「……捜して、捜して、やっと見つけたんだ。約束、したんだ。何処にいても俺が迎えに行く、だから待ってろって。アイツはきっと待ってる。今行かないでどうするっ!!」
ジェイの口から吐き出された声は悲鳴のようにその場にいたキング達の耳を打った。
「それなら尚更今は止めろ。ソイツが自分のせいでお前が死んだ、なんて事になったらどうする?その責をソイツに背負わせるのか?」
「だったらどうしろって言うんだ!」
感情を露にし、ジェイはギッとキングを睨み付ける。
「俺達を使え。この組織を使え。ボス殺しを肯定した時点で俺達は同罪。共犯者になってやる」
「ジェイ、私もキングと同意見よ」
「あ〜、俺は給料さえ貰えればどうでもいいから」
その時、クイーンの目に初めてジェイが人間らしく見えた。
それからジェイはダブルネームになり、貴方を確実に救出する為に半年をかけた…。
「そして昨日、貴方が知っての通り作戦が実行に移された」
そう言葉を締め括り、クイーンは苦しそうな表情を浮かべたルークを正面から見つめた。
「全部俺が…。あんな約束しなければジェイは…」
ぎゅっと膝の上にある拳を握り締めたルークにクイーンはそうね、と容赦なく頷いてみせた。
「今頃、表の世界で平穏に暮らしていたかもしれない。彼女を作って結婚して、子供を儲けて温かい家庭を築いていたかもしれないわね」
「………っ」
投げられた言葉にルークの胸が締め付けられるように痛んだ。
きつく唇を噛み締めルークは俯く。
…俺がレイの幸せを奪った?
「でもね、勘違いしないでルーク。今のは一般的な意見で幸せは人それぞれ違うものよ」
「…違う?」
俺のせいでレイが人を殺めざるおえなかったというのに?
「そう。貴方が思う幸せとジェイが思う幸せ。…私は貴方達の幸せが重なる事を信じているわ」
スッと音もなく立ち上がったクイーンは廊下へと繋がっているドアへ向かう。
「ジェイ、後は貴方の役目よ」
ドアを押し、声量を抑えて呟いたクイーンはそのまま振り返る事なく部屋を後にした。
「…お前もお節介だな。でも、サンキュ」
部屋に、クイーンと入れ替わるようにレイが足を踏み入れた。
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