-幕間-


ちぢまるきょりはけせぬつみのうえに。



-幕間-



それは今から遡ること半年…

奥の豪華な造りの扉から出てきたクイーンが机に向かって作業をしている青年に声をかけたのが始まりだった。

「ジェイ、ボスがジョーカーが貴方を呼んでるわ」

ボス= Jokerは五十代前半の痩身男だった。

「…今行く」

その頃のジェイはいつも無表情で口数も少なくって何考えてんのか分からなかったわ。

正直、嫌いな部類の人間だった。

でもボスが連れてきた人間だし、仕事だって任されれば仕損じることなく全て遂げてみせていたし信用はしていた。

ジェイがボスの部屋へ入り、任務からキングが帰還してきた。

「お帰りなさいキング。無事で何より」

「おぅ」

自席へ腰を下ろしたキングにコーヒーを淹れ、クイーンが微笑む。

キングはカップを傾けながら室内に目を走らせた。

「ところでアイツはどうした?今日は任務ねぇだろ」

「ジェイならさっきボスに呼ばれて…」

―パン、パン、パンッ!!

言葉は最後まで続かなかった。

聞き慣れた銃声とくぐもった呻き声がボスの部屋から聞こえてきたのである。

ガタリ、とキングは椅子を倒して立ち上がり、クイーンは咄嗟に自分の武器を手にとった。

そして、静寂。

数秒か数分か覚えていないが音もなく扉が開く。

そこから右手に愛銃、左手に赤く色付いた紙を手にしたジェイが出てきた。

扉が開いた事で強まった血臭に、僅かに見えたボスの姿。

キングは前に出ようとしたクイーンを右手で制し、鋭い眼差しをジェイへ向けた。

「てめぇ、自分が何をしたか分かってんのか?」

俯き気味のジェイは小さく答える。

「…分かってる」

「分かってねぇだろ!てめぇとボスの間に何があったか知ったこっちゃねぇ。けどな、てめぇのした事でこの組織にいる奴等が死ぬことになるんだぞ」

どんな組織でも頭がいなくなれば機能しなくなる。

敵組織につけ入れられることになる。

そんなことになったら始めに殺られるのは俺達じゃねぇ。したっぱの、非戦闘員や弱い奴等だ。

怒りを滲ませたキングの言葉にジェイは顔を上げ、抑揚無く坦々と切り返す。

「お前も俺に組織の為に大切な奴を殺して来いって言うんだな」

「―っ!?」

キングとクイーンはジェイの言葉に目を見開き、息を呑んだ。

「俺の邪魔をする奴は消す。それが例え恩人だろうと、キング、クイーン、お前等だろうと」

ジェイの右手に握られた愛銃がカチリと音を立てた。

睨み合いが続くかと思われた場に、第三者が現れた。

「ただいま〜。って、え!?何してんのさ三人とも!」

入ってきたエースが現状を目にして驚きの声を上げる。

「馬鹿野郎!入ってくるな!」

キングとクイーンがエースに気をとられた隙にジェイが動く。

「きゃ!?」

「クイーン!」

ジェイはクイーンを捕らえ、そのこめかみに撃鉄を起こした銃を押し当てた。

「キング、お前に最期の選択をさせてやる。仮にクイーンが敵に捕まったとする。人質の救出は限り無く零。そこで、ボスは組織の情報流出を避ける為、人質諸とも犯人を殺せと命令した」

お前は命令をとって、組織の為に自分の大切な奴をその手にかけるのか?

それとも人質をとって組織を裏切るのか?

どっちだ?

ジェイの瞳には見たこともないぐらい苛烈な色が宿り、室内にジェイの殺気が渦巻く。

こんなジェイは一度も見たことがない。今まで隠していたのか、とキングの背を冷たい汗が伝う。

キングの返答次第でクイーンの命が消える。

「おいおい、冗談は…」

「黙れ、エース」

口を挟んできたエースをジェイは一睨みで黙らせた。

「キング…」

銃口を押し付けられているクイーンが、瞳を揺らし苦悩しているキングの名を呼ぶ。



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