-白日の下へ-裏-
まもるために、このてをちにそめるかくごをきめた。
-白日の下へ-裏-
血に濡れた両手を水で洗い流す。
ザーザーと流れ落ちる冷たい水に手をさらし何度も何度も擦る。
馬鹿みたいだ。こんなことしても染み付いた血が落ちるわけねぇのに。
キュ、と蛇口を捻って水を止め、俺は唇を歪めた。
―狂ってる
あの男に言われなくてもとうに自覚している。
いや、自覚していたはずだ。
なのになんだこの無様な姿は!
口ではなんとでも言える癖に。
ナギを前にして、知られるのが怖くなった。今の、本当の俺を知ったナギに何を言われるのか怖くなって言葉を紡がれる前に逃げ出した。
「ははっ。何やってんだ俺は…」
今更だろう?
今更だ。
情けなく小刻みに震える掌を握り締める。
もう絶対に離さないと決めただろ。
後悔は一度で沢山だ。
しっかりしろ。何のためにダブルネームになった?
全てはアイツを守る為だろう!!
俺に向けられる感情が例え拒絶や嫌悪に染まったとしても俺はアイツを守るんだ。
これ以上傷つくことのないように。
誰にも傷つけられることのないように。
あの頃、俺の隣で屈託なく浮かべられた笑顔を取り戻す為に。
それが俺の存在意義であり生きる理由だ。
恐怖を心の奥へ沈め、逃げ出した場へ戻るとそこにナギはいなかった。
気配で気づいたのかキングが俺に背を向けたまま言葉を投げてきた。
「お前の大事な奴はクイーンがどっか連れてったぜ」
「そうか」
それを聞いて部屋を出ようと背を向けた俺に再び声がかかる。
「ジェイ。いや、Jack。俺等はお前がJokerになったこと感謝してるんだぜ。俺達は駒じゃねぇ。心がある。そうだろ?」
「……あぁ」
「お前の大事な奴にだってソレはある。会いに行くならソイツの声をちゃんと聞いてやれ」
そうすりゃ上手くいく、と自信に満ち溢れたキングの声が俺の背中を押す。
俺は背を向けた先にいるキングにさんきゅと小さく返し、今度こそ部屋を後にした。
恐れてるのは何も俺だけじゃないって事か。
珍しいキングのお節介に俺は苦笑を浮かべ廊下を進んだ。
クイーンが連れていったってことはクイーンの部屋か客室、応接室だろう。
でも基本的にクイーンの自室に入れるのはキングだけだから…。
二階にある第一応接室へ向かえばスモークガラスで出来た扉の向こう側にナギとクイーンの姿が見えた。
クイーンとナギはどこか真剣な表情で向かい合って座っていた。
どうするかな、と扉に手をかけ少し開けたところで中からナギの声が漏れ聞こえてきた。
「本当なんですかソレは?じゃぁ、ジェイは…」
「えぇ、ジェイはJackとJokerの二つ名を持つダブルネーム。幹部にしてこの組織のボスよ」
次いで聞こえてきたクイーンの言葉に俺はもう後戻りは出来ないと、全てを受け入れる覚悟を決めた。
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