-隠された真実、明かされる過去 裏-
ぼくはどこにいてもきみをおもっている。
-隠された真実、明かされる過去-裏-
ナギが引き取られて一年。俺は施設を後にした。
荷物など元からあまりない俺はその足で、ナギの引き取られた先へ向かった。
約束通り迎えに。
大きくて立派な屋敷の前に着き、はやる鼓動を抑える。
もうすぐ会える。
インターホンを押す指が震えた。
サザッ、と雑音の後にはい?と女性の声が返ってきた。
俺がナギに会わせて欲しい、と用件を告げると応対した女性はしばらくお待ち下さい、と言って沈黙した。
その場で待つこと数分、玄関の扉が開いて四十代前半ぐらいの女性が出てきた。
「あの子にお会いしたいと言うのは貴方ですか?」
そうです、と頷いた俺に彼女は俯いてこう言った。
「あの子は先月、交通事故に巻き込まれて亡くなりました」
「………う、そだろ?あいつが死んだなんて」
予想もしなかった出来事に頭の中が真っ白になった。
「なぁ、そうだろっ!アイツがいないだなんてっ」
俺は信じねぇ!!!絶対信じねぇ!!!
気付けば俺は目の前の彼女の両肩を力任せに掴み、揺さぶっていた。
そして、彼女はただアイツはもういません、と繰り返すばかりで…。
それから数日俺はどうやって過ごしていたのかあまり覚えていない。
失ったものがあまりにも大きすぎた。
ナギという大切な存在を失った俺の心は、悲鳴を上げていた。
「ナギ…」
そして、俺は誘われるようにナギが命を落としたという場所に佇んでいた。
「俺もそっちへ行っていいか…?」
ふらり、と車の行き交う車道へ身を投げ出そうとしたその時、後ろから強い力で肩を引かれた。
それにより俺は前ではなく後ろに倒れ込んだ。
「〜っ」
「お前死ぬ気か?」
見上げた先には真っ黒のサングラスをかけた、四十代後半の男が嘲るように俺を見下ろしていた。
「その命、いらねぇなら俺がもらってやるよ」
この出会いにより、俺は闇の世界に足を踏み入れる事となる。
「てめぇなんかに俺の命はやらねぇ。やるなら、俺の大切な奴にだけだ」
「フン、だったらそいつはどうした?」
その問いに答えられず俺は視線を反らした。
「ここで死のうとしたってことは一ヶ月前、ここで死んだ女がお前の大切な奴か?」
「………女?」
聞きたくなくて耳を塞ごうとした矢先、俺の耳は不可解な単語を拾った。
繰り返した俺に男は違うのか?と訝しげに聞いてくる。
女だと?いくらナギが可愛くても女に間違われたことは一度もない。
だったら一ヶ月前ここで死んだのは誰だ?
ナギは生きている?でも何処に?
あの養母は俺に嘘を吐いた?
考え込んだ俺をどう思ったのか、男はふぅと息を一つ吐き出すと懐から名刺を一枚取り出した。
「その命、いらなくなったらここに連絡しろ。お前は見込みがある」
無理矢理俺に名刺を渡して男は去って行った。
数分後、俺もその場を後にした。
プルルルル…、プルルル…ピッ!
『決まったか?』
「命はやらない。それでもいいなら」
『OK、すぐ迎えをやる。ソイツについて来い』
怪しげな社名が印刷された名刺を片手に通話を切り、薄汚れた壁に背を預けて天窓から見える空を見上げる。
お前は生きてるんだなナギ。
どこにいても必ず迎えに行く、待ってろ。
俺は覚悟を決めた。
足元に蹲る男達を冷めた瞳で見下ろし、爪先で転がす。
少し離れた所には、数週間前会った女性、ナギの養母が気を失って倒れている。
―ナギは何処にいる?
だからあの子は…
―嘘はいらねぇ。本当の事を言え!じゃねぇとてめぇを…
ひっ!?いっ、命だけは…
―てめぇの命なんざどうでもいい。早く言え!
はいっ!!あっ、あの子は裏の世界に売って…
―まさか、始めからそのつもりで引き取ったのか?
…っ、はい。
―てめぇ!!アイツをそんなことのためにっ!許さねぇ!!!
俺の視界は真っ赤に染まり、この身は光から闇へ堕ちた。
だけど後悔なんてしていない、これがナギへと繋がる道なら…。
[ 109 ][*prev] [next#]
[top]