-変わったモノ、変わらないモノ 裏-
いやだ!ほんとうはきみとはなれたくなんかない。でも、ぼくはきみをしんじてるから。
-変わったモノ、変わらないモノ-裏-
ナギをバスルームに押し込め、掠め取っておいたナギの携帯を開く。
不用心にもロックはかかっていない。
アドレス帳、メールボックス、通話履歴、と順に見て笑みを溢した。
「見事に組織関係者の名前しかねぇ。と、いうことは組織との縁を切ればアイツには俺だけ」
ますます笑みが深まる。
こんなことを考えてる俺は狂っているのかも知れない。
それでも俺にはアイツが必要なんだ。
そして、メール作成画面を起動させ、メール受信着信履歴の一番多い奴に送る。
ソイツが多分ナギに指示を与えている奴だ。
さて、相手はどう出る?
その時ちょうどナギがバスルームから出てきた。
俺の手元にある自分の携帯に気づき慌てて近づいてくる。
「って、それ俺のだろ!?勝手に何してんだよ」
「お前にはもう必要ない。それに、組織にはもう戻らないって送った」
「は?何してんだよっ!」
何って、言った通りだ。
みるみるうちに顔色を悪くしたナギは体を小刻みに震わせ、己の体を抱き締めた。
「ど…して…」
お前を俺だけのモノにするのに、組織は邪魔なだけだ。
携帯を畳んでテーブルに置き、立ち上がる。
「死ぬのが怖いか?」
「………」
「銃口を向けられたお前を見た時、俺はもっと怖かった」
お前がいなくなったらと思うと…、俺はきっと生きていけない。
その俺にとって唯一の存在を確かめるよう、目の前の震える身体を抱き締めた。
俺はお前を失う訳にはいかないんだ。どんな手段を使おうとも。
「言ったろ?お前が手を汚す必要はもうない。お前は俺が守る」
「そうだけど!レイは分かってない!!俺の組織の残酷さを、規模の大きさを!」
「分かってる。お前の言いたいことは。でも、大丈夫だ」
お前の組織のことは知っている。
その時、テーブルに置かれた携帯が振動した。
かかったか…。
ナギより先に携帯を手に取り、通話ボタンを押す。
『ルークか?お前、組織を裏切るつもりか?』
「残念だが俺はルークじゃねぇ」
電話口から相手の声が聞こえたのかナギの動きが止まり、固まった。
ビンゴか?
『誰だ貴様』
「そうだな、J-ジェイ-、って言えば分かるか?」
すぐ側でナギが驚いているのを視界に捉えた。
ナギが驚くのも無理はない。ナギからしてみれば俺は対立関係にある組織の幹部だ。
その証拠に電話の相手も驚きに息を飲んだ。
『なっ、貴様Jackか!?ルークをどうした!!』
「奴はもういない」
『…それがどいうことか分かってるのか!』
「あぁ、理解してる。俺の組織とあんたン所の組織の開戦の幕開けだな」
お前の言う所のルークは俺が貰う。そしてお前等には死を…。
うるさく喋る相手を適当にあしらい、通話を切る。
ついでに電源も落としてナギに携帯を返した。
「もう使わねぇだろうがな」
「レイ…」
血の気の引いた、不安そうな顔でナギは俺を見上げてくる。
俺が怖いのか?
それでも俺は…。
今は何も言うことは無い、とナギに背を向け離れる。
「あっ……、レイ!俺、俺…」
呼び止められ、振り向こうとした矢先、背中に軽い衝撃がきた。
背中に温かい温もりを感じ、ナギが俺の背中に抱き付いてきたのが分かった。
「レイ…」
今にも泣き出してしまいそうな不安定なナギの声に、心が締め付けられる。
何をそんなに悲しんでいる?俺が変わってしまった事か?
「…今日は色んなことが一辺にあったからな。考えるのは明日にして今日はもう寝ろ」
それがどういう気持ちでも、まだ俺に感情を向けてくれているということが俺には嬉しかった。
ナギを寝室へ連れて行き、ベッドに上がらせる。
軽く布団の上から二、三度叩いてやれば、疲れていたのかナギは直ぐに瞼を落とした。
「レ…イ…」
「おやすみ、ナギ」
眠りについたナギの髪を飽きもせず、しばらくすいていればマナーモードにしていた自分の携帯が振動した。
ナギは深い眠りに落ちているのか規則正しい寝息を立てている。
俺はそれを確認してから携帯に出た。
「どうした?」
『潜入工作員から動き始めたという連絡が入りました。どうしますか?』
流石、早いな。俺が携帯を切ってからまだ三十分も経ってないというのに。
「動いてるのは雑魚だけか?」
『いえ、主にルークの所属する部所とその上の幹部連中もです』
自らルークを取り戻しに来る気か?そんなにコイツが大事か。
気に入らねぇな。
『ジェイ?』
しばし黙り込んでしまっていたのか電話の相手が不思議そうに呼び掛けてきた。
「あぁ、なんでもねぇ。雑魚は放っておいてかまわねぇが幹部連中は残さず消せ。頭にはまだ用があるから生け捕りにしろ」
『了解』
プツ、と切れた通話を聞きながらこの後のことを考える。
今日の内に、いや遅くても明日の昼過ぎにはナギのいた組織は壊滅するだろう。
俺が打ったシナリオ通りに。
開いたままの携帯を操作し、本部へ電話を繋げる。
「あぁ、俺だ。そっちはどうだ?」
『お前の指示通り精鋭部隊を揃えた。いつでも動けるぜ』
「そうか。お前はそのまま待機して、アジトを守ってくれ」
『はいよ。ところでお前の宝は手に入ったのか?』
「当たり前だ」
隣で安心しきった顔で眠るナギの寝顔に心の中が満たされていくのを感じた。
『そりゃ結構なこって。もう盗られんなよ』
「分かってる」
通話を終え、携帯をサイドテーブルに置いた。
全ては明日決まる…。
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