-変わったモノ、変わらないモノT-
おれがいちにんまえになったらかならずおまえをむかえにいくから。
-変わったモノ、変わらないモノT-
俺の心を表すような、どんよりと空を厚く覆う雲。
幾重ものセキュリティが施された高級マンションの最上階。
一般人には到底必要ない、防弾加工された大きな窓。
その意味は?
俺は押し込まれたバスルームでシャワーを浴びながら数分前に再会したアイツの事を考えていた。
―どうしてこんなとこにいるんだ!
お前を探してた。
―そうじゃない。何でお前まで…。まさか、俺のせいで?
違う。これは俺が自分で選んだことだ。お前のせいじゃねぇ。
そう言って、ホルスターに収まった銃を触る。
―でもっ!!
そんなことはどうでもいい。今は俺よりお前だ。辛かっただろ?感情を殺すぐらいに。
―そんなのっ。俺は平気っ…
ソッと体の向きを変えられ、大きな掌が俺の頬を包みこむ。
もっと早く見つけてやれれば…。遅くなって悪ぃ。
―へい…きに決まって…っ。ふぅ…ぅ…ぅぁ…ぁ…
昔と変わらない優しさに、止まった筈の涙が再び流れ始めた。
お前はもう手を汚さなくていい。これからは俺が…、俺がお前を守る。
シャワーのコックを捻り、お湯を止めた。
「こんなざまでこれからも仕事できるのか俺?」
もう一度、感情を殺すことができるのだろうか?
不安を抱え、バスルームから上がればラフな服装に着替えたレイがソファーに座って携帯を弄っていた。
ストラップも何も付いていない飾り気の無いシルバーの携帯を。
「って、それ俺のだろ!?勝手に何してんだよ」
それには俺が所属する組織の情報が入っている。
「お前にはもう必要ない。それに、組織にはもう戻らないって送った」
「は?何してんだよっ!」
意味を理解した俺は真っ青になった。
戻らない宣言=裏切りを意味する。
一度入ったら死ぬまで抜け出せない世界。今、この時を持って、俺は裏切り者として命を狙われることになった。
「ど…して…」
そんな事をするのか分からなかった。
明日から隠れて生きなきゃならないのか?
裏切り者をこの手にかけたことがある。
ソイツは初めから闇しか知らず、偶然垣間見た光の世界に憧れを抱いた。
そこに夢を見てしまった。
ただそれだけの事で、組織を脱走した。ソイツにとってはとても衝撃的なことだったのだろう。
結局、ソイツは夢を見ることなく、俺が。
俺にもそうなれ、と…?
知らず震え始めた身体を抱き締めた。
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