D俺だけを求めろ
カーテンも引かれていない、明るい陽光が射し込む生徒会室で俺は刹那に全てをさらけだしていた。
理性はとうの昔に溶かされ意識の片隅に一握りあるだけで、俺は刹那の与える熱にただただ翻弄され続けていた。
「ぁ…ぁあ、もっ…ゃ…せつ…なぁ」
刹那の額から汗が顎を伝い、ぽたりと俺の胸に落ちる。
「…っぁ…はぁ…」
それすら感じてしまい俺は体を跳ねさせた。
「…っく、きっつ…はぁ…」
情欲に濡れた瞳で見下ろす刹那の瞳に、頬を朱に染め瞳を潤ませとろけきった表情の俺が写る。
「…ぁ、…ぃや…ぁっ…」
なんて顔してるんだ俺っ
一握りの理性が羞恥をあおり、俺に顔を背けさせる。
刹那はさらりと溢れた黒髪から覗く、赤く染まった形の良い耳に舌を這わせ、熱い吐息と共にかすれた声を吹き込む。
「竜樹、俺を見ろ」
「……んっ」
どくり、と心臓が大きく脈打ち俺は体を震わせた。
それにより俺の中に存在する刹那のモノを締め付けてしまい、殊更刹那を感じてしまう。
「…んぁ…ぁ…ゃ…」
「嫌じゃねぇだろ。こっはもうとろとろだぜ」
クッ、と耳元で囁き刹那は俺のモノに触ってくる。
「…ぅぁ…ぁ、っ…もっ…」
自身への刺激により、限界も近かった俺は何も考えることが出来なくなり、あっという間に快楽に呑まれた。
目の前にある熱い体に腕を回し、必死にしがみつく。
「…ふぁ…ぁあ…っ…んっ」
ぐっ、と深く中を突かれ身体中に電気が走ったような衝撃を受けて体がしなる。
「…っぁあ…ぁ…っは…」
刹那は目の前に晒された、赤い華の咲く白い首筋に舌を這わせ、その華がいつまでも消えぬよう更に上から強く吸い上げる。
「…っ…ぁ、はぁ…ん…」
ちくり、と走った痛みもすぐさま快楽に刷り替わる。
俺は体内でくすぶる熱の解放を求めて刹那の体に回した腕に力を込めた。
「…はぁ…ぁあ、もっ…ぁつ…い、よ…せつ…なぁ…」
そして、無意識に腰を揺らめかせ刹那の体に擦りつける。
刹那はクッ、と口端を吊り上げ、赤い舌で己の唇を湿らせると俺の耳元で酷く甘く低い声で囁く。
「そうだ、それでいい」
濡れた瞳で見上げれば目元にキスを落とされ、はっきり写った視界には子供でもない大人でもない、男の顔をした刹那がいた。
「…せつなぁ」
その瞳には俺だけが写っている。
それがたまらなく嬉しくて、顔を寄せれば刹那も顔を近付けてきて至近距離で見つめ合う。
「竜樹」
「…んっ、はぁ…ぁ…ぃゃ…ぁ」
「俺だけを求めろ」
刹那の鋭い双鉾が、俺の心までも射ぬく。
気付けばその言葉に、俺は熱に浮かされたように、うんと頷いていた。
◇◆◇
ソファーで二回、バスルームで一回。
昨日、今朝、というより夜中か?にも数回…。
俺はもうくたくたで動けなかった。
大体初心者に対してここまでするか、普通!?
途中から記憶の無い俺は、起きたら刹那の部屋のベッドで寝ていた。
動けない筈の俺がなんで刹那の部屋か分かるかって?
寝ていたベッドから刹那の香りがしたからで…って誰に何言ってんの俺…っ
シーツにくるまりベットの上で一人赤面する。
「これからどうしよ…」
刹那にどんな顔して会えば良い?
物凄く恥ずかしい…
-コン、コン
シーツにくるまっていれば扉がノックされた。
刹那じゃないよな?刹那がノックするわけないし…。
俺は痛む喉元に手をあて返事を返した。
「…はぃ」
声がかすれたのは仕方がない。
ガチャリ、と扉を開けて入って来たのは生徒会の後輩だった。
「ども、竜樹先輩。刹那先輩とちゃんと仲直りしたみたいですね」
ベッドに近寄ってきた生徒会の後輩、もとい書記の一年は俺の姿を見てにっこり笑った。
「どうしてお前がここに?刹那は…」
「そんな心配しなくたって刹那先輩は隣の部屋にいますよ?」
「…別に心配なんか」
カァッ、と頬が熱くなるのを感じてシーツを深く被る。
俺はシーツの隙間から後輩を見やり、口を開く。
「それで刹那は…?」
「やっぱり気にしてるじゃないですか」
くすり、と笑われ水の入ったペットボトルを手渡される。
「…ぅるさい」
口でどう言おうとやっぱ気になるものは気になるんだから仕方ないだろ…。
「刹那先輩は竜樹先輩が出来なかった今日の分の仕事してますよ」
「え?刹那が?」
俺の分まで…?
驚きに目を丸くする俺に後輩はにっこりと笑顔で爆弾を落とした。
「よかったですね、竜樹先輩。明日からの連休、刹那先輩にいっぱい愛してもらえますね」
「…あ、愛って!?な、何言って…」
口をぱくぱくさせて、どもりながら言い返せば後輩は可愛らしく首を傾げた。
「仲直りしたんですよね?」
喧嘩した覚えはないが一応うん、と頷いておく。
「刹那先輩と竜樹先輩って恋人同士ですよね?」
「う、ん?」
恋人同士?恋人…?
「ちっ、ちがっ…!ぁ…れ、くないのか?」
わぁーっ、とシーツを被り考え始めた俺に後輩は後ろを振り返る。
「って、言ってますけどどうなんですか?刹那先輩」
「どうもこうもねぇ。竜樹は俺のだ。分かったら書類持って出てけ」
後輩に目もくれず刹那はシーツにくるまる竜樹の前に立ち、シーツを引き剥がす。
「ぅわっ!!ぁ…刹那?」
刹那は俺の頬に手を滑らせ上向かせると親指の腹で唇をなぞってくる。
「……っ」
「お前は俺のだ。忘れるな」
そう言って瞳を覗きこまれる。
「俺以外の奴を見る事も触らせる事も許さねぇ」
俺は刹那の深い漆黒の瞳に吸い込まれるようにして頷いた。
刹那の言葉から伝わる、束縛という名の独占欲が心地良くて俺は心を震わせる。
「…刹那は?…刹那は俺のになってくれるのか?」
震える声で告げれば、刹那はフッ、と笑うだけで答えてはくれなかった。
代わりに熱い口付けで誤魔化されてしまう。
しかし、俺が不安や心配を抱く暇もなく、後輩の言う通り連休は嫌っていう程刹那に愛された。
そして、そんな俺の些細な不安を吹き飛ばしたのは全校生徒を集めて行われた生徒総会の日だった。
全校生徒が注目する舞台上で、刹那は俺を所有物宣言し、あろうことか俺にディープキスをして腰砕けにさせたのである。
「良く聞けてめぇら。学園で平和に過ごしたきゃ竜樹に手ぇだすな。出したら殺す」
「……っ」
俺は恥ずかしくて、刹那の胸に顔を隠す様に埋めていた。
「それから、俺は竜樹にしか興味はねぇ。俺の周りをうろついてる目障りな奴らはさっさと消えろ」
シン、と静まり返った第一体育館内にブツリ、とマイクが切れる音が響き、刹那はマイクを舞台袖にいた会計に投げ渡すと、俺を抱き上げる。
「ぁ、刹那先輩。この後は…」
「解散させろ」
呆然と聞き返す二年の会計に刹那は背を向け指示を出すと、俺を横抱きにしたまま会計のいる舞台袖と逆の方向に歩き出し姿を消した。
背後の第一体育館からどっ、と爆発したような悲鳴や騒ぎ声が聞こえたが、今の俺にはそんなもの関係なかった。
抱き上げる力強い腕に、見下ろしてくる瞳は鋭く細められ、愉しげに吊り上げられた唇が開く。
「これで満足か?」
俺は感情が溢れ出るままに、その首に腕を回し、触れるだけのキスをしかけて満面の笑みで頷き返した。
…こうして、想いが繋がり合った二人は新たな物語のスタート地点に立ち、共に歩き始めた。
08.07.17(完)
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