C好きなんだろ?
ガチャリ、と俺を姫抱きしたまま生徒会室の扉を開けて刹那は中に入る。
「あ、刹那先輩おかえりなさい。僕の言った通り食堂にいたでしょ?」
中には一年の書記と二年の会計が二人、応接室のソファーに腰掛け、のんびり紅茶なんか飲んでいた。
俺の居場所を教えたのはお前か!?
ジロリ、と書記を睨めば後輩はてへっと笑い、早く仲直りして下さいって言ったじゃないですか、なんてぼけた返事を返してきた。
「竜樹先輩が無事見つかったことだし、俺等はさっさと退散しようぜ」
書記の腕を掴み、二年の会計がそう言う。
「そうですね、僕等お邪魔みたいだし」
二人は示し合わせたように頷き合い、俺と刹那に会釈して部屋を出て行ってしまった。
今だ刹那に抱き上げられている俺はあの二人が出て行ったことでまたしても、二人きりになってしまったと意識してしまい顔に熱が集中する。
刹那は二人が座っていた応接室のソファーに俺を抱えたまま腰を下ろすと、両足を開いた間に俺を座らせた。
ちょっ、この体勢恥ずかしい
「竜樹。何であの野郎に触れさせた?」
後ろから伸びてきた刹那の手が俺の顎を撫でる。
「…っ。俺だって好きで触れられたわけじゃない!!」
何で俺はこんな意地になって刹那に怒鳴り返してるんだろう?
刹那に誤解されたくない?
何を?
俺が東海林に簡単に体に触れさせた、ということを?
「………」
うつ向いて黙り込んだ俺を刹那は後ろからギュッ、と力強く抱き締めてくる。
「竜樹」
でもそれじゃまるで俺が刹那に嫌われたくないみたいじゃん。
「竜樹」
別に俺は刹那なんか…。
そう思っても、嫌われる、と考えたら胸が痛くなった。
どうして?
「竜樹」
刹那は俺の耳元に唇を寄せると、いつの日だったか、そう遠くない日と同じように俺の耳をかぷり、と噛んできた。
「……ぁ」
ざらついた刹那の舌が耳朶を這う。
刹那の熱い吐息が鼓膜を震わせ、俺の脳髄を痺れさせる。
「…んっ…はぁ…」
真っ白になった頭の中、一つの言葉が浮かび上がる。
あぁ、そうか…。
やっと分かった…。
あんなに悩んだのが馬鹿みたいだ。
俺は好きなんだ。
龍条 刹那が好きなんだ。
ずっと前から。
それこそ、刹那の姿を視界に写したその時から。
ばらばらだった心と体、意思が、俺は刹那が好きだと理解した途端繋がり合い、歓喜に震えた。
「耳弱ぇんだな。それともさっきのキスのせいか?」
抱き締めてくる腕を解き、刹那は右手で服の上から俺自身を撫でてきた。
「…ぁ、…んっ…刹那」
自分の、刹那に向ける感情を理解した俺はそれがたまらなく恥ずかしくなって目を瞑り耳を塞ごうとした。
だが、両手はそこから手を離した刹那に掴まれ、さらに赤面するような言葉を耳に吹き込まれる。
「これ以上のコトも昨日しただろ?今更恥ずかしがんな」
「………ぅ」
でも、好きだって自覚した今と自覚してなかった前とじゃ、まったく違う。
刹那は俺の両脇に手をさしこみ軽々持ち上げると、俺の体を反転させ、今度は刹那の足を跨ぐように下ろされた。
「………っ」
ますます恥ずかしい。刹那の視線を感じて顔を上げられない。
だが、刹那がそれを許す筈もなく顎に手をかけられ上向かされる。
間近で視線が絡まり、瞬く間に顔が熱くなるのが分かった。
今なら心臓が煩く鼓動する意味も、息が詰まりそうなぐらい胸がざわめく意味も分かる。
全ては目の前に好きな人がいるから…。
刹那がどういう意味で俺を抱いたのか分からないけど、俺は自覚した想いを、初めて育った想いをそのままにしておくなんて出来なくて、伝えようと口を開いた。
「刹那、俺…おれっ…」
しかし、続きが喉につっかえた様に出てこない。
たった二文字言えば良いだけなのに。
刹那はそんな俺をジッと見つめ、不意に口端を吊り上げ笑った。
「くくくっ…」
そして、互いの吐息が触れるぐらい顔を近付けられ囁かれる。
「好きなんだろ?俺が」
「え?」
何で知って…
それが表情に出ていたのか刹那はくくくっ、と肩を揺らし軽く触れるだけのキスをして離れた。
「いつから気付いて…?」
「さぁな」
それより、こっちはもう辛いんじゃねぇ?と、腰を掴まれ引き寄せられる。
服の下から緩く主張し始めた俺自身が刹那の太股に当たり、
「…ぁ」
と、声が漏れてしまった。
その声が刹那に続きを期待してるように聞こえ俺は慌てて唇を噛み締めた。
「俺が好きなんだろ?なら、声聞かせろ。お前からキスしろ」
俺は言われた言葉に無理っ、と首を横に振った。
そんなこと恥ずかしすぎて出来ない。
羞恥で死んでしまう。
「竜樹」
有無を言わせない声音が早くしろと急かす。
でも、無理なもんは無理だって!!
そもそも刹那は俺のコトどう思ってるんだよ?
俺にだけ言わせて。正確には言ってないけど。
キッと刹那を睨みつける。
「する気になったか?」
「なってないっ、そうじゃ、なくて……刹那は何で俺のこと…」
勢い込んだはいいが、気まぐれだの遊びだの言われるのが怖くなってだんだん語尾が小さくなっていく。
それだけで刹那は俺の言いたいことに気付いたのか瞳を細めると口端を吊り上げ、小さく笑った。
「キスしたら教えてやる」
何だよそれ!?俺は真面目に!!
「〜〜〜っ」
もうどうにでもなれ!!
俺は背伸びをして、頭一つ分はある空間を縮めると刹那の唇に自分の唇を押しあてた。
すぐ離すつもりだったのに後頭部を刹那にしっかり抑えられ、深い口付けに変えられてしまう。
「…んっ…ふぅ…はっ」
そして、離された頃には俺は言い返す気力もなく刹那の胸にもたれかかっていた。
「はぁ…はぁ…」
寄りかかった胸からとくん、とくんと少し早い鼓動が聞こえる。
えっ?……俺と一緒?
自分の胸に手をあて目を閉じる。
とくん、とくん…
それが答えのような気がして、俺は自然と微笑んでいた。
「わかったなら続きするぞ」
そう言ってソファーに押し倒してきた刹那に俺は頬を朱に染めながらも、嬉しさを感じて頷いた。
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