@俺以外の奴を見るな


毎月定期的に行われる、各委員会の委員長を集めた会議が大会議室で行われていた。

司会進行役の生徒が机に置かれた紙を捲りながら口を開く。

「―――以上です。質問のある人は挙手して下さい。……いませんね。では、本日の会議は終了とします。解散」

司会進行役である俺が会議終了を告げると、会議に参加していた生徒達がざわざわと喋り始め、煩くなる。

そして、誰一人席を立つことなくこちらをちらちら、見てくる。

俺は一つ溜め息を吐き、一向に帰る気配を見せない生徒達に注意する。

「会議は終了しました。さっさと帰って下さい」

「「「え〜〜〜〜」」」

そう言えば不満の声がそこかしこから聞こえてくる。

「副会長だからっていい気になんなよっ」

「そうだそうだ!!刹那様に気に入られたからって調子に乗んないでよね!!」

しだいにそれは俺への悪口となる。

俺は非難を浴びる事になった原因に視線を向けた。

原因、もとい、生徒会会長、龍条 刹那は腕組みをしたまま目を瞑っていた。

まだ寝てるのか?

刹那は会議が始まるなり俺に全てを押し付けて、この状態だった。

まぁ、いつものことか…。

俺がきゃんきゃん、と騒ぎ立てる生徒達を大会議室からどうやって追い出そうか考えていると、風紀委員長の飯山が立ち上がった。

風紀委員長を努める飯山 直樹は、すらりとした体の割にほどよく鍛えられた筋肉がついていて、身長もあり、その上顔も良かった。

学園では刹那に次ぐ人気者だ。

飯山は俺と視線が絡むとフッ、と微笑む。

「「「キャ―――」」」

「直樹様が僕に笑った〜v」

「いや〜、かっこいい〜v」

さっきまで刹那に騒いでた癖に現金な奴だな。

にしても、飯山も良く分からない奴だ。

「ほら、皆帰ろう。暗くなったら危ないからな。それとも、皆で帰るか?」

飯山の台詞に騒いでいた生徒の大半が頷いた。

「よし」

飯山は近くにいた生徒の頭を撫でると、周りに気付かれぬよう俺にちらりと視線を向けてきた。

それに俺は軽く、会釈をしておいた。

一応助けてくれたんだよな…?

そして、飯山は五月蝿かった生徒達を引き連れて会議室を出て行った。

「はぁ〜〜〜」

まったく毎回毎回、手のかかる。

俺がテーブルの上の資料を整え鞄にしまっていればフッと、その上に陰ができた。

「?」

顔を上げれば至近距離に端正な顔立ちの男がいた。

ちょっ、近っ!!!

俺は椅子の上で後退る。

「何か、質問でもあった?東海林くん」

東海林 孝太、文化祭実行委員長。こいつも刹那と飯山ほどではないが人気がある。

ただ俺はこいつが苦手だったりする。会うたびに口説いてくる軽い男だ。

「一緒に帰んね?」

「……まだここの戸締まりとかあるから」

一緒には帰れません、と言おうとしたがそれはガンッ、という音に遮られた。

「俺の前からさっさと消えろ」

いつの間に起きたのか刹那が東海林を射殺さんばかりに鋭い瞳で睨んでいた。

「…ちっ。竜樹ちゃんまた今度ね」

東海林はそう言って大会議室を出て行った。

そうなると必然的に、大会議室には俺と機嫌の最悪な刹那だけになるワケで。

って、俺にどうしろって?

俺はとりあえず窓の戸締まりを確認しようと席を立つ。

と…、急に刹那が立ち上がり、腕を乱暴に掴まれた。

俺はバランスを崩し、刹那の広い胸の中に閉じ込められる。

「何すんだよ!?」

ワケが分からず叫べば、耳元にゾクリと背筋が震えるような低い声が流し込まれた。

「俺以外の奴を見るな」

「……っ」

ピシリと固まった俺の耳朶を刹那はカプリ、と噛んできた。

俺は刹那の行動に頭の中が真っ白になり、とっさに刹那を突き飛ばして大会議室から逃げ出した。

一体、今のは何だ!?

刹那は何、した?

俺は刹那に噛まれた右耳を手で押さえ、ひたすら寮目指して走った。

「はぁ…はぁ…」

寮の入り口をくぐりエレベーターを待つが、エレベーターを待つのがもどかしい。

到着したエレベーターに乗り、生徒会フロアで降りる。

そこから少し歩いた先にある生徒会副会長室に飛び込み、鍵を掛けた。

俺はふぅ、と熱い息を吐き出し扉の前でしゃがみ込む。

顔を両手で覆うとじわりとした熱が伝わる。

「はぁ…」

顔が熱いのも、鼓動が速いのもきっと走ったせいだ。

でも何で刹那は俺にあんなことを…?
いくら機嫌が悪かったとはいえ…。

俺は熱が引くまでそこを動かなかった。






「もう、ワケわかんない…。寝よっかな」

のろのろと制服から私服に着替えてベットにダイブしようとしたら、脱ぎ捨てたブレザーから軽快なメロディが流れ出した。

「そういや携帯出してなかったな…」

ブレザーを拾い上げ、携帯を取り出すとメールが一件きていた。

カチカチ、と操作して開けばクラスの友人で夕飯を一緒に食べようというもの。

俺は気をまぎらわせるにはいいかもな、と考えすぐ行くと返して食堂へ向かうことにした。





夕飯時の食堂は込んでいた。

俺には生徒会特権といって食堂の二階を使う権利があったが、今は友人と一緒なので一階の込んでいる食堂内を進む。

「あのっ、竜樹様!!よければこの席使って下さい!!」

「いや、でも…」

爽やか青年グループの一人が立ち上がり、俺にそう言う。

一階で食べる時はいつもこうだ。

「悪いし…」

俺が首を振って遠慮していれば、後ろから抱き締められるよう、肩に腕を回された。

「遠慮せず譲って貰えば良いじゃん、竜樹ちゃん」

相手がのしかかってきているせいか、耳元で喋られて俺は気持ち悪さを感じて鳥肌を立てた。

「伯頼から離れろ、東海林」

そこへまたしても厄介な相手が現れる。

「飯山…」

俺は友人と飯を食いに食堂に来ただけなのに、と俺を挟んで言い合いを始めた二人に肩を落とした。

今日は厄日か…。


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