陽が沈んだ後


朝陽高校から生徒会長が去って後、新生徒会長には生徒会役員の推薦で秋が就任していた。

「任せとけ!俺は藤真みたいに皆を見捨てたりしないからな!」

「秋…」

元会長、藤真はすっかり悪役にされ副会長以下役員は秋のこの発言にますます心酔していくようになった。

そして朝陽高校は再び混乱に陥ることになる。

「っ何をやってるんだ奴らは!」

どんっと握った拳が机に叩きつけられる。次々と届く被害届や喧嘩の報告に、風紀委員長吉見は怒鳴り声を上げた。

藤真が居なくなって清々したと思っていた矢先、大量に押し寄せられるようになった書類と報告の数々に吉見の怒りはもはや頂点に達していた。
奴らと吉見が言うのはもちろん秋率いる生徒会のことだ。

「これならまだ佐桐の奴の方が――っ」

言いかけて吉見は唇を噛む。
くしゃりと前髪を掴み、乱暴にかき混ぜる。

「何を言ってるんだ俺はっ!…疲れているんだ、きっと」

少し仮眠室で休んでくると風紀室にいた風紀委員に言い置き、吉見は風紀室内に設置されいる仮眠室へと姿を消す。

その背を、風紀委員達は不安げな表情で見つめていた。

「なぁ、俺達、大丈夫かな…」

「な、何言ってんだよ!俺達には吉見委員長がいるじゃんか!」

「でも…お前だって気付いてるだろ。校内の異様な雰囲気。秩序も風紀も何もあったもんじゃない」

生徒会は一体何をしているのか。親衛隊の管理も行き届いていない。更には、人気のある生徒会役員が一人の生徒にまとわりついているせいで余計親衛隊の感情を逆撫でし、状況を悪化させていた。

これまで生徒会と風紀が連携し、牽制してきた問題児達も統率が崩れた今が好機と読んだかこれまでの鬱憤を晴らすように暴れまわっている。もはや一般生徒に安全な場所は無く、そこへ悪意を持って流された元会長佐桐の噂。

見捨てられたんだと、会長のせいで、と負の連鎖は止まらず。
辛うじて機能していた風紀が解決に乗り出すも時既に遅く。乱れきった風紀を正すには及ばなかった。力が無さすぎた。

「お、俺たち風紀委員が委員長を信じなくてどうするよ!」

「………」

そうしてまた結局は人任せになり、誰かが何とかしてくれるはずと皆傍観者に成り果てる。

藤真が学校を去った三週間後には、朝陽高校は手のつけられない程に荒れてしまっていた。







「お前達のせいでアイツ等には友達が出来ないんだぞ!」

隙を狙われ、生徒会役員の親衛隊に囲まれた秋は持ち前の正義感を発揮するように大声で言い切る。

「僕たちはそんな真似一度だってしてない!遠くから見守ってただけで、アンタこそ役員様方に取り入って毎日毎日まとわりついて邪魔なんだよ!迷惑だってのが分からないほど馬鹿なの?」

「なっ、馬鹿っていう方が馬鹿なんだ!」

小学生染みた応酬を始めた秋と親衛隊の間に、一瞬の隙をついて居なくなった秋を捜していた生徒会役員達が割って入る。

「何してるんですか!」

「一対多数…卑怯…」

「最低〜」

親衛隊は侮蔑の視線を向けられ顔色を悪くして押し黙る。けれど親衛隊の隊長だけは黙っていられずに口を開いた。

「僕たちはただ…」

「言い訳なんか聞きたくもありません。行きましょう秋」

「秋の好きなお菓子、用意した」

しかし、役員達は耳を傾けることすらせずに親衛隊の存在を無視すると秋の手を取って歩き出す。

「お菓子?あっ、この間のチョコレート菓子か!行く行く!」

去っていくその背を、恐ろしいほど感情の失せた多くの瞳が見つめていた。

「……隊長」

「もうあの方たちは僕らの知る方じゃない。…汚れたものは処分しなくちゃ」

うっすらと弧を描いた唇が事態を加速させる。

「彼らに連絡を…」

抑制から解き放たれ、暴れている問題児たちに餌を。

乱れた秩序の中で唯一生まれた利害。

変わり果ててしまった生徒会役員と元凶の秋に制裁を。
最低クラスに押し込み、自由を奪ってきた生徒会役員と風紀に復讐を。

幕切れはあっけなく、唐突に訪れる。



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